ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「さてと、俺はそろそろ仕事に戻るかな」
ソファにどっぷりと腰掛けていたムースさんは、気怠げそうに立ち上がって扉の方に歩いて行った。
「じゃあクリム君も引き続き、武器錬成の方よろしく頼むよ」
「わかりました」
そう言ってひらひらと手を振りながら、彼はアトリエを後にした。
どうやらムースさんはよくこのアトリエをサボり場所として利用するらしい。
クリムもクリムで仕事の邪魔にはならないから別にいいとのことで、ムースさんの出入りを許しているそうだ。
でも、ムースさんって確か近衛師団の師団長さんだったよね?
「こ、近衛師団って暇なのかな?」
「あの人が特別ってだけだよ」
思わず呟くと、それを聞いていたクリムがかぶりを振りながら返してきた。
「騎士は基本、どの師団にいても忙しい身だ。師団長ともなると仕事の量だって桁違いに増える。でもあの人は要領がいいから、どんな仕事も手早く終わらせて休める時間を確保してるんだよ」
次いでクリムは呆れた様子で続ける。
「だから楽してるように見えたりサボってるように見えたりするのは勘違いで、なんだかんだでやるべきことはやってる人だよ。他の師団長と比べて、仕事への熱意はまったく感じられないけどさ」
「へ、へぇ……」
そういえば前に宮廷内で立ち話した時も、『仕事なんて一割の力でやればいい。残りの九割で好きなことしよう』とか堂々と言ってたもんね。
噂に聞く他の師団長さんたちとはまだ会ったことがないけど、みんな仕事に真面目だったり強い熱意を持っているらしいから、ムースさんだけ浮いているような気がする。
まあ、私もどちらかと言うとムースさんの考えに賛成だけどね。
根を詰めすぎるとよくないことは、もう身に染みてわかったから。
好きなことに全力で生きようという気概は、みんな見習うべきものだと思う。
「そういえばクリムって、他の騎士団の人とは交流があったりするの?」
「どうして?」
「いや、宮廷錬成師って騎士団や王族から依頼を受けて、淡々と仕事をこなしてるだけの印象があったから。騎士さんと仲良くしてるのはなんか意外でさ。他にも仲良い人とかいるのかなぁって」
「……別にムースさんとは仲良しってわけじゃないけど」
なんだか不満そうな顔をしながらも、クリムは渋々と教えてくれる。
「完全に交流がないってわけじゃないけど、話す機会が少ないのはその通りだよ。だから騎士団の人たちとは別に仲良くはないかな。まあ、あの人が特殊ってだけだよ」
「そ、そう……」
他の師団長さんたちがどんな人なのか聞ければと思ったけど、実際に自分で会って確かめるしかないみたいだ。