ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

 クリムのお父さんは行商人になる前は、村の衛士をしていたと。
 そのお父さんから剣を教えてもらいながら、旅に同行していたのであれだけ戦えるということか。
 次いでクリムは、腰の鞘に納めていた長剣を抜き、それを掲げながら言う。

「それとこの“武器”のおかげで、今は魔物素材の採取もそこまで苦労してないって感じかな」

「それってお店に売ってるようなものじゃないよね? クリムが錬成で作ったの?」

「そう、僕の自信作だ」

 青白い刀身から美しい輝きを放っている上質な一振り。
 見た目の麗しさもさることながら、斬りつけた相手を凍結させたあの力はどう考えても通常の武器ではあり得ない現象だ。
 そう思った通り、この長剣は錬成によって作り上げた特殊武器だったらしい。

「これまで前人未到だった氷雪地帯――『グラス雪原』。そこに探索に行って唯一生還した採取家が、グラス雪原の奥地で珍しい氷を拾って来たんだ。それは普通の氷と違ってまったく溶けず、千年は溶けないだろうなんて噂が流れて『千年氷塊』って名前が付いたんだ」

「もしかして、その千年氷塊を素材にしてその武器を錬成したの……?」

 クリムは長剣を鞘に納めながら頷く。

「武器の錬成素材に用いると、凍結効果を付与することができるんだ。その分、高い素材理解度と錬成技術が必要になるから、ここまで鍛え上げるのに相当苦労したけど」

「よくそんな珍しい素材を手に入れられたね。千年氷塊なんて名前も聞いたことないのに」

「行商人の父さんとあちこち旅する中で、偶然手に入れることができてさ。父さんは売りたいって言ってたけど、僕が手伝いを頑張るって言ったら特別に譲ってくれてさ」

 確かに行商人だったら珍しい一品と出会う機会は多そうだ。
 だとしてもそんな素材をここまで上質な武器に錬成できるなんて、またクリムの才能の凄まじさに圧倒されてしまう。
 私もいつかは、これくらいすごい錬成物を生み出してみたいものだ。

「まあ、その話はいいとして、早いところ岩人(ゴレム)が落とした鉱石を回収しよう。まだ少し量が足りないから、山の散策も続けなきゃいけないし」

 と言って、クリムは鉱石を拾うように催促してくる。
 それを聞いて、私は鉱石を拾いに行こうとするけれど、寸前であることを思い出してしまった。

「そ、そういえば、さっきさ……」

「んっ?」

「私に、何て言おうとしたの?」

「……」

 岩人(ゴレム)との戦いが始まる直前のこと。
 昔のことを話題に出してしまい、クリムと微妙な空気になった。
 お互いに今は喧嘩中の身なのに、昔話に花を咲かせてしまいそうになってものすごく気まずかった。
 でも、その時……

『あ、あのさ、ショコラ』

 クリムが何かを言いたげにしていた。
 いったい何を言いたかったのかは定かではない。
 ただ、あの声音からして、何か重要なことを伝えようとしていたのではないだろうか。
 そう思って私は、思い切ってクリムに聞いてみることにした。
 けれど……

「……別に、なんでもない」

「……そっか」

 クリムの口からは何も聞くことができず、また少し微妙な空気に包まれながら鉱石採取を進めたのだった。
 もしかしたら、私の違和感を拭ってくれる“何か”を、打ち明けてくれるかと思ったんだけど。
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