ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「なぜ今までこの力のことを黙っていた……!」
「別に、黙っていたわけじゃ……」
私だって自分の力のことを知らなかったのだ。
まさか素材採取係をしていただけで称号を授かっているなんて思わなかったから。
しかも自分が採取した素材に、とんでもない性質を付与していたなんていったい誰が気が付けただろう。
それによってババロアの活躍を陰で支えていたなんて、もっと想像がつかないこと。
ババロア自身も、他の職人たちも、私でさえ、アトリエが繁盛していたのはババロアの実力のおかげだと思っていたのだから。
「いや、そのことはもはやどうでもいい。それよりもさっさと俺のアトリエに戻って来るんだ」
「も、戻って来いって言われても……」
「俺のところでまた素材採取係をやらせてやると言っているんだぞ。いいからさっさとついて来い!」
ババロアはそう言ながら、こちらの手を取ろうとしてくる。
強引なその様子を見て、罵られていた時の記憶が蘇り、私は全身は強張らせてしまった。
逃げられない。逆らえない。この人の言いなりになるしかない。
これまでも、これからも、私はずっと……ババロアの道具なんだ。
『じゃあ、僕のアトリエで働いてみないか?』
瞬間――
クリムの声が頭の中に響いて、私は咄嗟に手を引いた。
それによりババロアの手が空振り、奴は不機嫌そうに顔をしかめる。
威圧感のあるその表情に、またも身が竦んでしまいそうになるけれど、私は意を決してババロアに言い返した。
「……嫌、です」
「あっ?」
「嫌、です……! 私は絶対に、あのアトリエには戻らない……!」
語気を強めてそう言うと、ババロアは驚いたように目を見張った。
まさか私が反抗的な態度をとってくるとは考えていなかったのだろう。
確かに昔の私だったら、ババロアに逆らえずに言いなりになっていたと思う。
でも、今は違う。
私はもう、ババロアのアトリエの素材採取係じゃない。
クリムのアトリエの見習い錬成師だ。
あんな苦い記憶しかないアトリエには、絶対に戻ってやらない。