ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「あっ……」
素材採取から戻って来て、クリムに指導を受けながら冒険者の武器の錬成をしていると……
思うように錬成ができず、失敗ばかりを繰り返してしまった。
注文書には湾曲する曲剣が書かれているけれど、上手く集中できずに波打つような剣になってしまう。
「ご、ごめん。また失敗しちゃった」
「いや、別に謝る必要はないけど」
せっかく教えてもらっているのにまるで上達しないので、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
こうも失敗続きになっている原因は自分でもわかっている。
素材採取に向かう途中、町で再会したある人物のことが、いまだに脳裏に残っているからだ。
『ショコラ、俺のアトリエに戻って来い……!』
まさか今さらババロアからそんなことを言われるなんて思わなかった。
いや、クリムも言っていたように、今までのババロアの活躍はすべて私が持っている【孤独の採取者】のおかげだったのだ。
それに気付いたとなれば、アトリエを復興させるために私を連れ戻そうと考えても不思議ではない。
もしかしたらまだ諦めてはおらず、またどこかで私に声を掛けてくるかも……
そんな不安が頭の片隅にあるせいで、私は錬成術に集中し切れていなかった。
「ショコラ、どうかした?」
「えっ?」
さすがに違和感を抱いたらしいクリムが、顔を覗き込みながら問いかけてくる。
私は慌ててかぶりを振って取り繕った。
「い、いや、なんでもないよ」
「……そっか」
クリムはそう言って、引き続き錬成のイメージを丁寧に伝えてくれる。
そうだ、今はこっちに集中するべきだ。
せっかくクリムが研究の時間を割いて私に教えてくれているんだから。
それにまた声を掛けられたら、何度でも同じように拒絶すればいい。
私はあのアトリエに戻るつもりは一切ないんだから。
あれだけ散々こき使われた場所に、わざわざ戻るわけがない。
私の今の居場所は……
「で、複雑な形状の武器は、実物を見たり触ったりしながら錬成を繰り返すのが効果的で……」
「……」
説明を続けているクリムの顔を、静かに横から見つめながら私は思う。
私はまだ、クリムのアトリエで学ばなきゃいけないことがある。
それにクリムから聞かなきゃいけないことがある気がするんだ。
だからここを離れるわけにはいかない。
私は改めて決意を抱き、僅かにわだかまっていたババロアへの恐怖心を、人知れず振り払ったのだった。