ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

「その様子じゃ、まだショコラちゃんとは仲直りできてないのかな?」

「……」

 ムースにそう問いかけられて、以前の会話が脳裏をよぎる。

『本当はあの子と仲直りしたいって思ってるんじゃないの? それかもしくは、罪悪感があって“謝りたい”とか……』

 ショコラを手伝いとして雇うことになった時、ムースに疑われてそう尋ねられた。
 その時は肯定も否定もしなかったけれど、ムースはいまだにそう思っているらしい。

「どうして僕が仲直りしたがってるって決めつけるんですか?」

「でも、そうなんだろ?」

「……」

 まあ、あながち間違いではない。
 しかし純粋に仲直りしたいというわけでもないので、やはりクリムは首を縦にも横にも振ることはしなかった。

「そもそも手伝いを雇うだけだったら、ショコラちゃんじゃなくてもいいのにさ、それでもわざわざ嫌ってるって公言してるショコラちゃんをアトリエに招いた。それって、困ってるあの子に手を貸したいって思ったからじゃないの?」

「……」

「喧嘩してる相手に優しくする理由なんて、『仲直りしたいから』以外に考えられないでしょ。それかもしくは罪悪感があるから、それを拭うために助けてあげたんじゃないかなって俺は思ったんだ」

「……だからあの時、ああ言ったんですか」

 何も考えていないように見えて、実は裏で色々と考えていたようだ。
 罪悪感があるから助けてあげたい。
 改めてそれを言葉にされて、クリムは思わずハッとさせられる。

「まあ、あんまり深くは聞かないし、気持ちを伝えるタイミングはクリム君の自由だから、俺がとやかく言える筋合いはないけど……」

 ムースは扉に手を掛けて、それをゆっくりと開けながら続けた。

「ただ、言いたいことは言える時に言っておいた方がいいよ。その人がいつまでも、自分の近くにいてくれるとは限らないんだから」

「……」

 そう言い残して、ムースはアトリエを去って行った。
 一人残されたクリムは、静まり返ったアトリエで考える。
 謝りたいと思っているのは事実だ。
 ただ、反対に謝りたくないと思っている自分もいる。
 そんな風に気持ちがチグハグになっているから、結果として今日まで仲違いを解消できていない。
 このままではいけないとは思っているけれど、前に踏み出すきっかけが見つからないのだ。

『錬成術は自分のためじゃなくて、誰かのためを思って起こす奇跡なの』

 大切な人の言葉を頭の奥で響かせながら、クリムは誰に言うでもなく呟いた。

「言いたいことは言える時に、か……」
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