ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「うぅ、さぶっ……!」
早朝のブールの森はかなり冷える。
もっと厚着にしてくればよかったと思いながら、私は傷薬の素材採取をしていた。
昨日は本当に失敗続きだったので、今朝はその遅れを取り戻すために朝から素材採取をしている。
まさかババロアのせいであんなに心を乱されるとは思わなかったなぁ。
クリムにも申し訳がない。
ただ、一晩寝たら気持ちがリセットできていたので、もう調子の崩れはないと思う。
試しに少しだけ武器錬成をしてみたけれど、問題なく錬成ができたし。
だから昨日の遅れを、今日中に一気に取り返そう。
「……早いとこ終わらせよ」
そして私は早くアトリエに戻るために、手足を忙しなく動かして素材採取を急いだのだった。
と、その時……
「……?」
なんとなく、後ろの方を振り返る。
別に、これに何か特別な意味があったわけではない。
気配や視線を感じたからとか、横目に何か見えたからとか、物音がしたからとかそういうことではない。
本当にただ、なんとなく、気まぐれに私は後ろを振り返った。
すると、そこには……
バンダナとマスクをした、見るからに怪しい男が立っていた。
「――っ!?」
茂みに隠れていたらしいそいつは、突如として大腕を広げて背後から襲いかかって来る。
間一髪で反応した私は、咄嗟にその場から飛び退いて男を躱した。
奴はこちらに視線を向けながら、マスク越しでもわかるほどの笑みを浮かべる。
「へぇ、結構すばしっこいじゃねえか」
「……だ、だれ?」
目を見張りながら驚いていると、今度は傍らの茂みが激しく揺れた。
そこから同じバンダナとマスクを着けた、体格のいい男が飛び出して来る。
私はその男もなんとか躱して距離を取ると、男たちを警戒するように身構えた。
人攫い? この森にそんなのが現れるなんて聞いたことないけど。
多大な違和感を覚えながら緊張の糸を張り巡らせていると、すぐに私の予想は間違っていたと思い知ることになる。
ある人物が、男たちの背後から姿を現した。
「ここにいたのか、ショコラ」
「……ババロア」
先日再会したばかりのババロア・ナスティ。
奴が登場したことによって、私の中にあった疑問がいくつも解消された。
突然現れた野蛮な男たち。
こいつらは不自然なくらい気配と足音がしなかった。
間違いなく“特殊な力”を使ってこちらに忍び寄って来たと思われる。
そういった類の魔法は知らないので、おそらく錬成武具を使っているのだろうと私は考えた。
怪しいのはあのバンダナとマスクだろうか。
しかしただのごろつきがそんな特殊な錬成道具を用意できるとは思えなかったので、ババロアという回答が出て来たことで私は人知れず納得した。
ババロアの差し金なら、特殊な錬成武具を持っていても何ら不思議はない。
おまけにババロアの後ろには同じような男たちが何人もいて、各々下品な笑い声を漏らしている。