ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
第九話 「思い出の言葉」
ババロアの襲撃の後、私たちは騎士団の方に呼ばれた。
襲撃された時の状況やババロアとの関係など、諸々の事情聴取のためである。
それらを終わらせて、クリムと一緒にアトリエまで戻ると、ようやくして緊張の糸から解放された。
クリムも同じ気持ちだったようで、長々としたため息をこぼしている。
「はぁ、それなりに時間かかったね。外もすっかり暗くなってるよ」
窓の外を見ると、確かにいつの間にか日が落ちていた。
私が素材採取に行ったのは早朝だったのに、もうこんなに時間が経っていたなんて。
改めてそれを知ると、思い出したようにドッとした疲れが押し寄せて来る。
クリムにそれを悟られたのか、気遣うような言葉を掛けられた。
「今日はもう疲れてるだろうから、錬成の作業は明日にしときなよ。色々あって気持ちも乱れてると思うし、今はゆっくりと休んで……」
私もそうしたいところではあったが、このまま休むわけにはいかなかった。
今から寝床についたとしても、きっとぐっすり眠れるはずがない。
私はどうしても、クリムに聞きたいことがあるから。
「……ねえ」
「んっ?」
「どうしてクリムが、お母さんのあの言葉を知ってるの?」
「……」
ずっと気になっていたことを問いかける。
ババロアとの最後の会話でクリムが言ったあの台詞。
あれが私の頭の中に引っかかり続けていた。
「……あの言葉って?」
「『錬成術は自分のためじゃなくて、誰かのためを思って起こす奇跡』。これ、お母さんが何度も私に聞かせてくれた言葉だよ。錬成術のことを私に教えてくれる時、いつもこの言葉を聞かせてくれた」
一言一句、まったく同じ台詞だった。
有名な錬成師さんが残した言葉でもなく、これはお母さんが独自に持っていた考えである。
たまたま似たような考えを持っていたとしても、一言一句同じ言葉が口から出てくるだろうか?
どうしてクリムが、お母さんのその言葉を知っているのだろう?
今、クリムが気まずそうに目を逸らしているのも気掛かりである。
「……そんなの偶然だよ」