ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「偶然って、こんな偶然あるわけないよ。これはお母さんの言葉だもん。それがたまたまあの時に出てくるなんて絶対に……」
「ショコラと母親の会話をたまたま聞いてて、それを覚えてただけの話だよ」
そう言われてしまっては、これ以上追及する術はなかった。
確かに私とお母さんの会話をどこかで耳にしていて、それが頭に残っていた可能性も充分にある。
それが偶然、あの瞬間に口からこぼれてしまったとしても不思議はない。
でもあの時、クリムは確かな意思と怒りを持ってババロアにこの言葉をぶつけていた。
私がそうしようとしていたのと同じように。
これは本当に偶然だろうか? 昔どこかで耳にしただけの言葉をあの瞬間に口にすることができるだろうか?
「それはもう置いといて、今日のところは早めに休みなよ。明日も疲れを引き摺られるとこっちも大変だし」
クリムはそれ以上、この話をしたくないと言うように終わらせようとしてくる。
いまだに納得できていない私は、続けて彼に言及しようと口を開きかけた。
しかし……
コンコンコンッ。
「クリム様」
「……?」
突然、アトリエの扉が叩かれた。
名前を呼ばれたクリムが扉を開けると、そこには王国騎士さんがいて、クリムに一枚の手紙を渡す。
「こちらがアトリエ宛てに届いておりました。送り主は錬成師ギルドとなっております」
「錬成師ギルド?」
「普段は冒険者からの依頼が多い中、こちらが届いておりましたので、早めにお渡しした方がよろしいかと思いまして」
騎士さんはそれだけを伝えると、すぐにこの場を去って行った。
確かに錬成師ギルドからの手紙は珍しい。
クリムはギルドから束縛を受けずに宮廷で活動をしているので、ギルドとの関係は皆無と言ってもいいからだ。
それなのに宮廷錬成師宛てに手紙? と疑問に思っていたら……
「これ、ショコラ宛ての手紙だ」
「えっ?」
「しかも、『品評会への招待状』って書かれてる」