ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
品評会への、招待……?
それって見習い錬成師として、師範となる錬成師の元で五年の修行をしなきゃ出られないんじゃ……?
だから私はババロアのアトリエを三年で追い出されて、どうしようもない崖っぷちに立たされたというのに。
クリムからその招待状を受け取って、中身を確認してみると、確かにそこには品評会へ招くという旨が書かれている。
どうやら私の作った武器で活躍した冒険者さんたちが、たくさん宣伝をしてくれたおかげらしい。
それでギルドでの悪評も無くなって、力を認めてもらえたみたいだ。
それとババロアのアトリエにいた職人たちの告発によって、劣悪な労働環境だったことも明るみに出たらしい。
そのおかげで私は今までの徒弟期間も認められることになって、それらを総合した結果品評会への出展が許されることになったそうだ。
「アトリエにいたみんなが……」
じゃあ、あの地獄の三年間は、無駄じゃなかったってこと?
これで私は、品評会へ作品を出展できる。
そこでもし実力を認めてもらうことができたら、晴れて念願だった自分のアトリエを開くことができるようになるんだ。
それはすごく嬉しい。お母さんが叶えたがっていた夢を、私が代わりに叶えてあげることができるんだから。
でも……
『品評会は一ヶ月後。この機会を逃しますと次回の開催は一年後となります。テーマは道具、武器、防具、すべて自由となっております。最高の錬成物の出展をお待ちしております』
「……」
アトリエを開くことは確かに私の夢で、目標で、お母さんとの約束だ。
でも、自分のアトリエを開けるようになったら、この師弟関係は終わりになってしまう。
基本的に品評会で腕を認められた錬成師は独り立ちをしなければならない。
そうなれば宮廷錬成師として活動する多忙なクリムとは、滅多に会うことはできなくなるだろう。
私も私で自分のアトリエを持ったら忙しくなるだろうし、顔を合わせて話す機会なんて皆無になると思う。
元からただの手伝いとしてクリムのアトリエに入ったので、いつかはこうなるだろうと思っていたけど……
いくらなんでもこれは、早すぎる気がする。
私はまだ、ここで習いたいことがある。
何よりクリムから聞かなきゃいけないことがある気がするんだ。
それをちゃんと聞き出すまでは……
「…………『その人がいつまでも、自分の近くにいてくれるとは限らないんだから』か」
「えっ?」
「本当になんでも見透かしたようなことを言う人だな。確かに言いたいことは言える時に言っておいた方がいいよね」
クリムはそう呟きながら、静かに笑みを浮かべていた。
いったい何のことだろうと思ったけれど、それを問いかけるより先にクリムが言う。
「さっきは嘘吐いてごめん。あの言葉、本当は知ってたんだ。というかあれは、僕の錬成師としての信念でもある」
「錬成師としての、信念……? お母さんの言葉が?」
なんでお母さんの言葉を信念にしているのだろう?
お母さんとクリムに接点はなかったはず。
だからお母さんからあの言葉を聞く機会そのものがなかったと思うんだけど……
頭をひどく混乱させていると、そこに追い討ちをかけるように、クリムが衝撃的な事実を口にした。
「だってチョコさんは、僕の錬成術の師匠だから」