ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

 クリムは幼き日の記憶を呼び覚ます。

 昔、気になっている女の子を傷付けてしまったことがある。
 幼い頃からよく一緒に遊んでいる女の子。
 名前をショコラ・ノワールという。
 性格は基本的には大人しめ。
 若干の人見知り気質で、臆病なところもある。
 でも好きなことについて話す時はすごく元気になる、そんな女の子。

 クリムはショコラと遊ぶのが好きだった。
 子供ながらに外ではしゃぐような遊びではなく、二人で静かに過ごすだけで楽しかった。
 だから村に住んでいた他の男の子たちからの誘いも、ずっと断り続けていた。
 けれど、八歳になったある日、村の男の子たちに囲まれた。
 彼らからの誘いを何度も断っていたため、その怒りを買ってしまったようだ。

『お前そいつのことが好きなんだろ』

『だから俺たちよりもそいつを優先してたんだろ?』

 別にこれくらいの揶揄いなど、無難に受け流せばよかった。
 しかしクリムは図星を突かれたこともあって、冷静な返しをすることができなかった。
 この年頃の男子は、異性への好意を異常なまでに恥ずかしいものとして捉えている。

『好きなわけないだろ、こんな奴』

 だからクリムは、ショコラへの好意を悟られないように、わざと冷たい態度を示した。
 その時のショコラの顔は、今でも忘れられない。
 ずっと仲のいい友達だと思っていた相手から、このようなことを告げられたらショックを受けるのも当然だ。
 別に異性として好きと言ってもらいたかったわけではないだろうが、この一言が原因でショコラとは疎遠になってしまった。
 せめてあの時、“仲のいい友達”だと言えていたら、どれだけよかっただろうか。

 それからクリムは、謝ることもできずに一人ぼっちの時間を過ごしていた。
 いつもみたいに遊びに誘って、この間のことを謝れば済むのに、クリムにはそれができなかった。
 もしかしたらあの時の発言のせいで、好意を悟られてしまったのではないかと危惧していたから。
 そうでなくてもあんなことを言ってしまった手前、もう前みたいに普通に話しかけることはできない。
 気まずい空気になるのは確定的だ。
 だからクリムは謝罪したい気持ちがありながら、一歩を踏み出すことができずに葛藤し続けた。
 せめて何か一つ、話しかけるきっかけさえあれば……
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