ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
そんなことを思っていたある日のこと。
母親から、『家の畑で採れた野菜をノワールさん家に届けて来て』と言われた。
ショコラと疎遠になった日から、まったく近づこうとしなかったノワール家。
正直行きたくはなかったけれど、ここで変に断ってしまった方が不自然に映ると思った。
その時は父親も母親もショコラと疎遠になっていることに気づいていなかったから、それを悟られないように野菜を持って行くことにした。
緊張しながら久々にノワール家の玄関を叩くと、出てくれたのは幸いにもショコラのお母さんだった。
名前を、チョコ・ノワールという。
『あっ、クリム君。うちに何かご用?』
『そ、その、うちの母が、野菜持って行けって』
『あらっ、わざわざありがとう』
そんな他愛のない会話だったと思う。
あまり記憶がないのは、早くそこから立ち去りたい気持ちで一杯だったからだ。
そして無事に野菜を手渡すや、クリムは早々にその場から立ち去ろうとした。
だが……
『あっ、そうだ、ショコラのこと呼んで来てあげるね』
『えっ!?』
一番恐れていた展開になってしまった。
どうやらノワール家の方も、自分とショコラが疎遠になっていることは知らなかったらしい。
だから当然のようにショコラを呼びに行こうとして、クリムは慌ててチョコのことを止めた。
『だ、大丈夫です! 僕、すぐに帰りますから』
『……』
この時のクリムは、割と平静を装えたと思っていた。
しかしチョコには内心の焦りを悟られてしまったらしく、さらには隠し事まで見抜かれてしまった。
『もしかして二人さ、喧嘩とかしちゃった?』
『えっ……』
『なんか最近、ショコラが外に遊びに行かなくなっちゃったし、クリム君もまったくうちに来てなかったからさ』
ショコラからは何も聞いてはいないみたいだが、彼女の様子とクリムの様子を見てそうだと悟ったらしい。
いきなり真相を当てられて、クリムは思わず固まってしまった。
その反応が余計に裏づけになってしまって、これ以上の言い逃れはできないと観念した。
そしてクリムは、ひどいことを言って傷付けてしまったとチョコに明かした。
本当は謝りたいけれど、気まずくて話しかけられないとも。
するとチョコは……
『ショコラと仲直りしたい?』
優しい声音でそう問いかけてきた。