ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

 チョコは独学で錬成術を習得したらしいが、腕は店持ちの錬成師と遜色はなかった。
 むしろ独学で習得した分、多方面に知識が豊富で、特殊な素材の組み合わせや独自のレシピなども持っていた。
 加えてとても優しく、教えるのが上手で、丁寧に錬成術のことを教えてくれた。
 それと、色々と鋭い人でもあった。

『クリム君ってさ、ショコラのこと好きでしょ?』

『えっ!?』

『だからムキになって、みんなにあんなこと言ったんだよね? “好きなわけないだろ”って』

『……』

 図星を突かれて、動揺のあまり誤魔化す余裕もなかった。
 それほどわかりやすい言動はしていなかったと思ったが、チョコの慧眼の前ではクリムの心は丸裸同然だった。

『ショコラのどこが好きなの?』

『そ、そんなの恥ずかしくて言えるわけないよ』

『えぇ、私すっごく気になるなぁ。教えてくれないんだったら、錬成術教えるのやめちゃおっかなぁ』

『えぇ!? それはずるいよチョコさん!』

『うそうそ、冗談冗談!』

 そう言ってたまに揶揄ってきて、控えめに歯を見せて笑う人だった。
 他にもチョコについてよく覚えていることがある。
 彼女はお菓子作りが得意だった。
 しかもただのお菓子ではなく、錬成術によるお菓子作りの達人だった。
 飲食物については錬成術よりも手製に限ると言われているが、チョコの場合は錬成術で作ったお菓子の方が美味しく、そんな珍しい特技を持っていた。
 クリムはチョコの作ってくれる錬成菓子が好きで、度々自分でも作ってみようと試したことがあった。
 しかし恐ろしいまでに難しく、チョコに錬成のコツを聞いてみたら、彼女は得意げな様子で答えてくれた。

『錬成術は自分のためじゃなくて、誰かのためを思って起こす奇跡なの』

 だから食べさせたい人のことを強く思い浮かべれば、美味しいお菓子が錬成できる。
 と、教えてもらったけれど、結局お菓子の錬成は上手くいくことはなかった。
 ただ、その言葉はクリムの胸に強く響き、今では錬成師としての信念にもなっている。
 だから『錬成術は金を生み出すためだけに存在する力』とババロアに言われて、ついこの言葉を返してしまった。
 これを幾度となく聞いているはずのショコラが目の前にいながら。
 あれは確かに不覚ではあったが、後悔はしていない。
 それくらいクリムにとってこの言葉は、譲れない信念であり、彼を支える力となっていた。

 それを教えてくれたチョコと修行を続けて、いつの間にか半年の時が過ぎ去っていた。
 そろそろ錬成術の基礎も身についてきたので、これをきっかけにショコラに話しかけようと考えていた。
 自分も実は、最近錬成術にハマっているのだと。
 もしよかったら一緒に錬成術の練習をしないかと。
 その流れでひどいことを言って傷付けてしまったことを謝れればいいと思ったのだが……

 そんな折に、恩人のチョコが病気で倒れた。
< 88 / 99 >

この作品をシェア

pagetop