ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
チョコの病気は、徐々に進行していく類のものだった。
日に日に身体機能が衰えていき、いつしか立つこともままならなくなるらしい。
その初期症状として、唐突な手足の痺れや脱力感に襲われることが頻発するようになり、クリムに錬成術の指導を始めてからちょうど半年の時に不調が現れ始めた。
『大丈夫大丈夫、絶対にクリム君とショコラを仲直りさせてあげるから』
それでもチョコは、錬成術の修行を手伝ってくれると言った。
本来ならば少しでも病気の進行を抑えるために安静にしておかなければならないはずなのに。
チョコとしては自分の体よりも、クリムとショコラのことの方が気がかりのようだった。
ただ、チョコは日に日に容態を悪くしていった。
幼いクリムにもわかるほどに、目に見えて痩せ細って体が衰弱していった。
それがあまりにも心配で、ショコラに謝るどころではなくなってしまった。
ショコラには謝りたい。けれど今はそれ以上にチョコの体調の方が心配である。
どうにか彼女を助けられないかと、クリムはチョコのことばかりを考えるようになっていた。
『錬成術で治すことはできないの? チョコさんの錬成術なら……』
『傷とか毒だったらね、錬成術で治すことはできるけど、病気だけは仕方がないんだよ』
病気を治せるのは医療だけ。
それもチョコから教わった、錬成術の基本の一つである。
そしてチョコの病気を治すためには、大きな治療院に多額の治療費を払う必要があるそうだ。
ショコラの父でありチョコの夫のカカオ・ノワールも、その治療費をかき集めるために必死になっていると聞いた。
だが、田舎村に住む村人程度では到底用意できる金額ではなかった。
他の親しい人たちも協力しようとしてくれたが、チョコはそれが申し訳ないと思ったようで、皆には『気にしないで』と言っていた。
同じくクリムもそう言われたが、彼は子供ながらに現実を受け入れられず、それ以上に恩人のチョコに恩返しをしたいと思っていた。
ゆえに、彼がこのような提案をしてしまうのも当然だと言える。
『それなら僕が、その治療費を稼ぐよ』
『えっ?』
『チョコさんに教えてもらった錬成術で、たくさんの人たちを助ける。それでたくさんお金を稼いで、チョコさんの病気を治してみせる』
お金がないから治療ができない。
それなら自分がそのお金を稼げばいい。
クリムはチョコを助けたい一心でその決意を示した。
チョコに教えてもらった錬成術なら、たくさんの人の助けになるはず。
だからきっと治療費を稼ぐことも難しくはないはずだと、クリムはそれを信じて疑わなかった。
『……うん。それなら私は、クリム君がもっと錬成術が上手になるように、精一杯錬成術のこと教えてあげるね』
今になって思うと、この時チョコがこう言ってくれたのは、自分の成長のためだったのだとわかる。
見習い錬成師が多額の治療費を稼ぐなんて絶対に無理だとわかっていたが、それを否定してしまえばクリムが錬成師の道を外れてしまうのではないかと考えたのだろう。
せっかくの新しい芽を潰してしまわないように、チョコは応援する形で錬成術の指導を続けることにしてくれたのだ。