ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
その気持ちが言葉にあらわれるように、クリムは微かに声を震わせている。
「二年間、僕はチョコさんと修行をしてた。でも本来チョコさんのその時間は、ショコラと過ごすはずの二年だったんだ。だから僕はショコラから、チョコさんといられた時間を奪ったんじゃないかって思ってた」
確かにクリムと修行を始めた時期と、お母さんが頻繁に出かけるようになった時期は重なる。
あの頃はお母さんと過ごせる時間が少しだけ減っていたけど、別に今さらそのことを咎めたりはしない。
しかしクリムにとっては、とても重たい問題のようだった。
「チョコさんとの関係を話したら、それを責められるんじゃないかと思った。ショコラがそんなこと言う子じゃないとはわかってたけど、やっぱりどうしても怖くて……」
「……」
謝りたいけど謝れない。
クリムの胸中に漂っていた懸念が、その状況に拍車をかけていたようだ。
「だから改めてあの時のこと謝りたいって思ってるんだ。こうして品評会への招待状も来たし、ショコラがここを出て行ったら、いよいよ謝れる機会がなくなると思うから。……本当にごめん、ショコラ」
クリムの心からの謝罪が、二人きりのアトリエに静かに響く。
私は特に怒っているわけではないから、その謝罪をどんな気持ちで受け取ればいいのか若干戸惑っていた。
ただ、まあ……
「……クリムが謝る必要はないよ。お母さんはお母さんの意思でクリムに錬成術を教えてたんだから。お母さんと一緒にいられる時間を奪っちゃったなんて、もう考えないで」
「……ごめん」
これでお互いの間に漂っていた気まずい空気が、ようやく解消できたような気がする。
クリムが心の内に秘めていたことを打ち明けてくれたことで、なんだか私の方がすっきりとした気持ちになっていた。
仲直り、とも違う気がするけど、これから何かは変わっていくと思う。
でもそっか、クリムも私と同じような目的を持っていたんだ。
「クリムはお母さんのために、錬成師として活動してるんだよね」
「うん。僕が錬成師として名前をあげたら、師匠のチョコさんのことがすごい錬成師だったってことをみんなに伝えることができると思ったからさ。だから宮廷錬成師になれたのはすごく幸運だったと思ってるよ」
私もお母さんのために錬成師として活動をしている。
アトリエを開くというお母さんの夢を、代わりに叶えてあげて、それでいつかお母さんがすごい錬成師だったってことをみんなに証明したいと思っているんだ。
知らない間に私とクリムは、同じような目標に向かって突き進んでいたらしい。
それなら私たちがいがみ合うのは絶対に間違っていて、お母さんだってそんなこと望んでいるはずがない。
だから改めて険悪な関係を解消できて、本当によかったと思う。