キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ

「未夢お嬢様、どちらへ、」


使用人さんの声も振り切って、外へ飛び出す。

さっきまで麻琴ちゃんと見ていた空は、オレンジ色に光ってキレイだったのに。

いま見上げる空は、どうしてか真っ暗にしか見えない。

光がなければ、右も左も分からない。


「いや、いや……っ」


私の唯一の楽しみを奪われて。

光のない世界を、どうやって生きていけばいいんだろう。


「こんな街、もう嫌だよ……っ!」


走って走って、走り続けた。

逃げきれないって分かってる。

総季が街を支配している間は、私は籠の中の鳥だ。

すぐに使用人たちに見つかり、屋敷に戻される。

お父さまから無視をされ、お母さまからは責められ、お兄さまからは……今度は殴られるかも。


「このまま消えちゃわないかな、私……」


気付けば、雨が降っていた。

気付けば、泥が足に跳ねて汚れていた。

皆が傘をさすなか、私は冷たい雨に打たれ……。

こんな私を、誰が「総季未夢」だと思うだろう。
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