キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ
*凌生*
*凌生*side
昔の夢を見た。
総季家の庭の端っこ。
いつも一人で泣いていた、小さな女の子。
『うぅ、ごめんなさい。おにぃさまぁ……っ』
『――もう泣かないで』
『だれ……?』
今にも落ちて来そうなぷっくりした頬に、涙をたくさんすべらせて。
赤い鼻からは、何回もズビって聞こえて。
こんな姿、見てらんないって思ったんだ。
『きみのお兄さんの友達。
春宮凌生だよ』
『りょうき、くん……?』
『こんな事したら怒られそうだけど、いつも泣いてたら放っておけないしなぁ……』
この子(義妹)がいつも冷遇されているのは知っていた。
だけど、あまりにも毎日泣き続けるものだから。
いつかあの子は笑わなくなるんじゃないかって、そう思ったんだ。
と同時に。
あの子が笑ったら、どんな顔をするんだろうって。
単純に気になった。