キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ

「変な意味じゃなくて。体に痣とかあった?って聞いてるの」

「痣……」


未夢が風呂に入っている時に覗いたことがある……が、痣はなかった。

あったのは、後頭部の傷跡のみ。


「昔、家具で頭を打ったとかで、その傷跡ならあったぞ。他は見られなかった」

「ふぅん。なら、お兄さんは暴力をふるってなかったってことだね」

「……あぁ、そういう事になるな」


確かに、あれだけ未夢にきつく当たっているにも関わらず、暴力をふるっているのを見たことがない。

罵詈雑言を浴びせることはあっても、体に直接触れるとか、そんなのも見た事はなかった。

それは偶然か――?


「ただの思い過ごしか、それとも何か裏があるのか……」

「……春宮さ」

「なんだよ」

「……いや、忘れちゃった」


何か言いかけようとした冬城が言葉を飲む。

気に掛けたいところだが、冬城は「何でもない」が口癖なところがあるから。

今回も口グセだろうと、さして気にしなかった。
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