キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ

しばらく黙ったお兄さまだったけど、「ふん」と私を鋭い瞳で一瞥した後。

「お父様にきちんと挨拶するように」と、それだけ言って去って行った。


「……~っ、っ」


お兄さまの姿が見えなくなって、しばらくした後。

急に胸がしめつけられて、思わずしゃがみ込む。


緊張しっぱなしだったからかな……。

久しぶりに呼吸したみたいに胸が痛い。


「はぁ、はぁ……」


落ち着いて、深呼吸深呼吸。

するとすぐに平常心に戻れた。

といっても、まだ心臓はバクバクしてるけど。


「でも私……お兄さまに言い返せたんだ……」


あの私が。

いつもお兄さまに前ならえだった私が。

初めて……「はい」以外の言葉で、お兄さまと会話をした。


「よかった……、よかったよぉ……っ」


安心した瞬間、涙がでてきた。

私は臆病者だから、お兄さまとお話しできなかったらどうしようって焦った。

お兄さまに「凌生くんにひどいことしないで」って言いたいのに、お兄さまが怖くて言えなかったらどうしようって。
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