キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ
「聞きたいことも話したいこともない。ただ殴らせろ」
「……思い切り頬に痕つけられちゃった人が言えるセリフ?」
未夢の兄・覇鐘に殴られた頬には、極薄の湿布が貼ってあった。
クソ、そう言えば一発食らったんだった。
「毒が抜けきってないのにケンカを売りに行くからですよ」
「負けたの―? カッコ悪い~」
「呼ばれたから行っただけだ。いつもならかわしてる」
しれっと言う俺に、冬城は「ウソだね」と言い切った。
「例え元気だろうと何だろうと。春宮は覇鐘の拳を絶対によけないよ。いや、よけられないはずだ。未夢をかばってるからね」
「ん? どいうこと?」
夏屋が首を傾げたのを見て、冬城はドアへ移動する。
「昔、覇鐘と約束をしたんでしょ?」
「……」
そう。幼い未夢を助けた俺。
そしていつの間にか仲良くなった俺たちに――覇鐘は鉄槌を下した。
『これ以上、妹に近づいてみろ。今度助けたら、今以上に未夢をひどい目にあわせるからな』