キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ

うっ、と言葉に詰まった。

だけど自分の中にある感情が何なのか……それが私にも分からない。


総季家に帰らなくていいの?と喜んでいるのか。

B地区で私は何をされるの?と不安に思っているのか。


ぐるぐる、ぐるぐる。

自分の中にある感情が分からない。

そんな私を、春宮さんが笑って見た。


「家に帰らなくて一安心、って顔してるな」

「そ、そんなことは……」


そんなことない――と言い切れずに口ごもっていた時。

春宮さんが、私の顎をクイッと持ち上げる。


「じゃあ聞くけど。雨の中ずぶ濡れで、お前は何から逃げてたんだよ」

「あ……」


そうだ。私は、お兄さまが嫌で、お屋敷が嫌で、この街が嫌で。

全てが嫌で、逃げて来たんだ。


「……っ」

「もう一つ質問」


今にも泣きそうになった私を見て、春宮さんはズイッと顔を近づける。


「お前、まだ兄貴から虐められてんの?」
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