キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ
「え……」

「どうなんだよ」


どう、って……。

いや、そもそも〝まだ〟って言うことは……。

春宮さんは、私がお兄さまからイジメられてることを知っているの?


「なんで、それを……」

「はは。いじめられずぎたショックで昔の記憶が飛んだか。

俺の名前を思い出せないか? お前が兄貴からイジメられた時に、何度か助けたことがあるんだけど」

「!」


その時、頭の中で昔の光景がよみがえる。



『おいで。僕が未夢を助けてあげる』



あの子の名前を、ずっと忘れていた。

だけど今――思い出せた気がする。


「りょ……、凌生、くん?」


すると「凌生(りょうき)」と呼ばれた春宮さんは、


「やっと思い出したか」と。


あの時と同じ。

幼い私が恋をした時と同じ、優しい笑みを浮かべた。


「――ッ」


凌生くんだ……。

本当に、あの時の凌生くんなんだっ。
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