キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ
「贅沢は言えないよね。だって私は人質だもん……」
部屋に一人残った私の耳には、何も聞こえない。あるのは静寂のみ。
また……一人になっちゃった。
「そういえば、さっき雷斗くんが〝早朝〟って言ってた。もう朝なんだね」
窓を見ると確かに、漆黒から淡いオレンジが見え隠れしている。
その白けたオレンジが、雷斗くんのつけているゴールドのピアスによく似ていた。
と同時に、雷斗くんのさっきの言葉を思い出す。
――大事な人質に傷が入っちゃダメ、って事で守ってるだけだから。春宮が未夢ちゃんの事を好きとか、そういうのは絶対ないよ
絶対……ないんだ。
そりゃそうだよね、私はただの人質だもん。
「もう昔には戻れないんだから……泣いちゃダメ。前を向かなきゃ」
そして自分の頬をぺちぺち叩く音を、私の部屋から遠ざかる雷斗くんと梗一くんが聞いていた。
私に聞こえないよう、声を落として話し始める。
「いいんですか? あんな事を言ってしまって」