夫婦ノートに花束を
私達は再会を機に連絡先を交換して食事に行くようになり、やがて陽太の方から告白され交際が始まった。

『これからもずっと側にいてくれる?』

『はい、こんな私で良かったら』

 太陽のようによく笑う優しい陽太が側にいるだけで、なんて事ない毎日が輝いて見えて陽太が側にいてくれるだけで陽だまりのように心が暖かく満たされた。

そして交際して二年の記念日に陽太からプロポーズされた。

『晴菜、その……えっと……結婚してください』

そういって薔薇の花束を差し出した陽太は、薔薇と同じくらい真っ赤だった。

『はい、こんな私で良かったら』

 そう言って私も真っ赤になりながら花束を受け取って二人で笑い合った。

 陽太がなぜプロポーズの際に薔薇の本数が9本だったのか、私は随分後になってから雑誌の花言葉特集で気づいた。

 好きだとか愛してるとか、陽太は絶対に言わない。言えないのだ。そんな口下手な陽太が薔薇の花束に込めた気持ちが嬉しくてこれ以上なく幸せだった。

※※

「あの頃に戻りたいな……」 

 コーヒー片手に思い出に浸っていた私は深いため息を吐きだす。手を繋ぐだけでドキドキして、たわいないことで笑い合ってふざけ合って、抱きしめあえば涙が出るほど幸せで、陽太が居れば何にもいらない、そう思っていたのに。

 そしてコーヒーを飲み終わると、私はふいに壁にぶら下がっているカレンダーに目をむけた。

「え! 嘘……っ」

 そこには丸印がついている。自分で付けたくせにすっかり忘れていた。

「最悪の10年目の結婚記念日じゃない……」

 涙が滲みそうになった私は鼻を啜ちながらダイニングテーブルから立ち上がる。

「陽太いつ帰って来るんだろう……衣替えでもしよっかな」

 別に今日衣替えしなければいけないわけでもなんでもない。でも掃除も洗濯も終わって何もすることがない私はひとりぼっちの寂しさを何かすることで紛らわせたかった。
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