あの夜に焦がれる。


「あら響。勉強は終わったの?」


「あー……、うん」


お母さんは夜ご飯の準備をしていた。

リビングには香ばしい匂いが漂い、炊飯器から規則正しく出る蒸気が空腹へと導く。


「もうすぐご飯出来るから座って待っていてちょうだい」


「ごめん、ちょっと今から出かけてくる」


「え? 今から? 何をしに出かけるの?」


「ちょっと、友達に呼ばれて……」


母さんの眉がぴくっと動く。

自分の心臓がしめつけられるような違和感に、「門限までには帰るから」と早口に言い残して外へと飛び出した。




「……はあ」


静かな空間にそっと息を吐く。

お母さんの返事を聞く前に家を飛び出してしまった。


しめつけられていた心臓は外に出たことでようやく動き出したように感じる。



お母さんはもともと心配性な方で、いわゆる過保護である。


少し外に出るだけでも連絡を必ずいれなければいけないし、事前に伝えた自分の予定が少しでも変わってしまうのならそれも伝えなければならない。

しかももう高校生だっていうのに門限もある。

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