あの夜に焦がれる。
「……そう、ですかね」
理央のお葬式は少人数で行われることを理央のお母さんから電話越しに聞いた時、参列は出来ないと一度断った。
ただの友達である僕が参加しても迷惑になるのじゃないかと思ったのだ。
それでもどうしても来てほしいと言われ、結局は断ることが出来ず今に至る。
「今日呼んだのはね、渡したいものがあったからなの」
「渡したいもの?」
理央のお母さんが僕に渡したいものは何だろうと思っていると、僕の目の前に真っ白な便箋が差し出された。
「もちろん最後に理央に会ってほしいから呼んだのもあるけれど、この手紙は今日渡さなきゃいけない気がして」
「手紙? どうして……? 書き置きの手紙とかはないって……」
真っ白な便箋に『響へ』と小さく書かれている。
角ばっているけれど整ったその字は理央の筆跡で間違いない。
「理央が響以外には見せるなって渡してきたの」
「え」
「高2の夏の終わりにね、俺に何かあった時は渡してくれって」