あの夜に焦がれる。


昨日は何も聞いてこなかったから大丈夫かと思ったけど、まさかお母さんの方から探りを入れてくるとは思わなかった。


「その子ってどんな子なの? 同じ高校の人? お母さん響のお友達がどんな人なのか気になるわね。良ければ今度お母さんにも紹介してほしいわ」


「え、あ……、そうだね」


食パンを口の中に押し込む。何故か「良いよ」って肯定の言葉を言えなかった。


なんだろう。理央のことをお母さんには知られたくない。

知られてしまったら理央と友達でいることを否定されそうな気がした。


小さい頃に一度あったからだろうか。

幼稚園の頃、さっちゃんという仲の良い女の子がいた。幼稚園でおままごとをして遊んだ記憶がまだ微かに残っている。


けれどお母さんはさっちゃんとの関係をよく思わなかった。だからお母さんは僕とさっちゃんの関係を裂いてしまったのだ。


さっちゃんは僕のことを避け始め、もう2度と僕とは遊んでくれなくなってしまった。僕はその時どうしてさっちゃんと遊んではいけないのかよく分からなかった。


でも今なら嫌なほど痛感する。お母さんは僕に男らしい遊びをしてほしかったのだ。


胸の中にあるモヤモヤした感情はしばらくは消えそうにないなと目玉焼きの黄身を箸で潰した。


どろりとお皿の上に溶け出す黄身は僕の代わりに何かが溢れ出してくれているように見えた。


『次のニュースです。○月○日午前×頃、○○県○○市内にある高校で生徒とみられる男性が死亡しているのが見つかりました。警察は飛び降り自殺として……』


ふと耳に入ったアナウンサーの声は淡々としていた。

お母さんからニュースは少しだけでも頭に入れておきなさいとこの時間はいつもテレビがついている。


「最近学生の自殺が多いわよね。……また、いじめかしら。高校での自殺だなんてよっぽどの苦しみがあったのかもしれないわね」


「……そうだね」


確かに最近のニュースでは自殺関連が多い。
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