クズ男に囚われたら。
「……これで許してくれる?」
唇の熱が消えると、瀬能はそう言った。
今朝の校門での光景とほとんど同じだ。
ただ相手が、あの女の子からわたしに代わっただけ。
……本当、なんでこんな男に。
「わたし、キスした」
「ん?」
「頭髪検査あるって。だからちゃんとしてきてって、お願いしたとき」
「……ああ」
先週の金曜日、瀬能は言った。
『橘花からキスしてくれたら、いいよ』って。
まんまと騙されたわけだ。
「なに。それで怒ってたの?」
クスクスと笑う瀬能。
「可愛いやつめ」なんて呟かれたその言葉だって、どうせ色んな女の子に言っている。
全部、わかってるんだ。
わかってるくせに、わたしは。
「返して。あのキスの分」
「ん。いいよ」