クズ男に囚われたら。


「……これで許してくれる?」


唇の熱が消えると、瀬能はそう言った。


今朝の校門での光景とほとんど同じだ。

ただ相手が、あの女の子からわたしに代わっただけ。


……本当、なんでこんな男に。



「わたし、キスした」

「ん?」

「頭髪検査あるって。だからちゃんとしてきてって、お願いしたとき」

「……ああ」



先週の金曜日、瀬能は言った。

『橘花からキスしてくれたら、いいよ』って。


まんまと騙されたわけだ。


「なに。それで怒ってたの?」


クスクスと笑う瀬能。

「可愛いやつめ」なんて呟かれたその言葉だって、どうせ色んな女の子に言っている。



全部、わかってるんだ。

わかってるくせに、わたしは。



「返して。あのキスの分」

「ん。いいよ」


< 10 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop