クズ男に囚われたら。


「あとはピアスだけ外しといてね」


特に何を言うでもなくそう伝えたわたしに、瀬能はクツクツと笑う。


「すげー淡々と仕事すんじゃん、風紀委員」

「そんなもん日常茶飯事でしょ。気にしてたらキリがない」


言いながら、手元にある紙に瀬能の名前と指導内容を書いた。

頭髪要指導……っと。


フッ、と。彼の溢れるような小さな笑い声が聞こえたのはそんなとき。


「"気にしてたら"、ね」

「っ!」


慌ててバッと顔を上げたけど、もう手遅れ。

不敵に笑みを浮かべた瀬能が、わたしを見下ろしていた。



……あぁ、本当に気の毒。


彼にハマった女の子は、終わりなんだ。



「昼休み、いつもんとこな」


耳元で、わたしだけに聞こえるように。

小さくそう言って、その問題児は女の子を連れて校舎の中へと入って行った。


< 6 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop