クズ男に囚われたら。
「あとはピアスだけ外しといてね」
特に何を言うでもなくそう伝えたわたしに、瀬能はクツクツと笑う。
「すげー淡々と仕事すんじゃん、風紀委員」
「そんなもん日常茶飯事でしょ。気にしてたらキリがない」
言いながら、手元にある紙に瀬能の名前と指導内容を書いた。
頭髪要指導……っと。
フッ、と。彼の溢れるような小さな笑い声が聞こえたのはそんなとき。
「"気にしてたら"、ね」
「っ!」
慌ててバッと顔を上げたけど、もう手遅れ。
不敵に笑みを浮かべた瀬能が、わたしを見下ろしていた。
……あぁ、本当に気の毒。
彼にハマった女の子は、終わりなんだ。
「昼休み、いつもんとこな」
耳元で、わたしだけに聞こえるように。
小さくそう言って、その問題児は女の子を連れて校舎の中へと入って行った。