クズ男に囚われたら。

***


「───遅かったじゃん」


昼休み。

わたしの目の前には、そう言って不敵に笑う瀬能遊がいた。


校舎2階の奥にある、今は使われていない旧音楽室。

それが、わたしと瀬能が会う"いつもの場所"。



「……今朝のアレ、何?」

「アレって?」

「とぼけないで。わたしの顔見たでしょ」

「ははっ。やっぱ気にしてたんだ?」


クツクツと笑う彼に、ムッとする。


あの女の子にキスする前、瀬能はチラッとわたしの顔を見た。

挑発だ、彼なりの。


「もうネクタイ緩めてるし」

「じゃあ今度こそ橘花が締めてくれる?」

「ふざけないで」

「本気」


窓際の椅子に腰掛けた彼のシルバーアッシュが、太陽に当たってキラリと輝く。


……あぁ、本当に憎たらしい男。


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