Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「それよりさっきの話が気になったんだけど、変な男に付きまとわれてるの?」

 急に現実に引き戻されたような気持ちになり、春香は苦笑いをした。

「あ……うん、そうなんだよねぇ。ただ偶然会うだけなら問題はないんだけど……」
「警察は?」
「まだ何も起きていないからね」
「でも食事に誘われたんでしょ?」
「でもそれだけだし……」

 すると黙って考え込んでいた博之が、何かを閃いたかのように目を見開いた。

「帰りだけ誰かと一緒に帰るのは出来ないの?」
「そうしたかったんだけど、職場の人に同じ路線の人がいなくて」
「私も一緒に帰れたらいいんだけど……」
「椿ちゃんは仕事が忙しいし、これは私の問題だもん。それにほら、本当にただのお礼の気持ちだったのかもしれないじゃない?」

 あまり大袈裟にしたくなくて、春香は軽く返事をしたが、二人にはそうは思えなかっだようだ。眉間に皺を寄せ、考え込んでしまう。

「じゃあさ、割と自由が利く仕事で、帰りだけ家まで送ってくれるような奴がいたらどう?」
「どうって……まぁ一緒に帰ってくれるなら嬉しいかなぁ」
「よし、決まり! 佐倉にボディガードをつけよう」
「はっ? ボディガード?」
瑠維(るい)、ちょっとこっち来て」

 トントン拍子に進んでいく話についていけず、挙動不審になる春香をよそに、博之はカウンターの端に座る男性に向かって声を掛けた。

 すると微動だにしなかった男性が、少し苛立ったように頭を掻きながら席を立ち上がると、春香の方に近づいて来る。

 さっきまでは背中しか見えなかったから、彼の顔を正面から見た春香はドキッとした。スッとした目尻、やや薄めの唇。まるで人形のような美しさを放っている。

 ただ春香は彼をどこかで見たことがあるような、そんな不思議な感覚に包まれていた。こんな美人な男性、普通なら忘れるわけがないんだけどーー。

「どうも」

 この無愛想でぶっきらぼうな態度、耳に心地よく響くハスキーボイス、そして瑠維という名前……春香はハッとした。

「あぁっ! わかった! ヒロくんの剣道部の後輩くんでしょ!」

 意気揚々と瑠維を指差した春香に対して、三人はそれぞれ別の反応を見せた。

 彼が誰なのかさっぱりわからない様子で、黙って様子を見守っている椿。

「佐倉ならわかると思ってた」
と、その様子を見据えていたかのように笑う博之。

 そして瑠維本人は、目を見張りながら春香をじっと見つめていた。
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