Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 土曜日になり、二人は朝から瑠維の家がある場所まで車で向かっていた。

 今住んでいる場所から高速道路に乗ってしまえば一時間ほどの道のりだが、そのほとんどが海沿いの道だった。

 普段ビルに囲まれた土地で生活している春香にとって、海の近くを通るというのはとても新鮮な景色だった。

 旅行で海のそばに行くことはあっても、海を目的にしたことはない。それでもふと目に入る海や空を見ると、不思議と心が癒やされた。

 この景色が当たり前になる日が来るのだろうかーーそう考えながら窓の下に広がる海を眺めていると大きな三叉路に差し掛かり、車は海ではなく山の方へ右折する。

 『山寄りには閑静な住宅街がある』ーー斎藤の言葉を思い出し、瑠維がその方角へ進んでいることがわかった。

 山と言っても低いもので、今はお寺の一部になっている。そして昔は山の裾野だった部分を切り拓き、住宅街として広がっていったと以前読んだ観光ガイドに書いてあった。

 目に留まるのは昔ながらの日本家屋ばかりだが、最近建ったであろう洋風の戸建ても数多く見られる。

 だが今のところ瑠維が言っていたセキュリティがしっかりしているという要素は見つけられなかった。

「もう少しで着きますよ」

 瑠維の声がして頷くと、窓の外にこじんまりとした駅が見える。駅前には小さなロータリーがあり、そこから線路沿いに明るく照らされた道が現れた。

「もしかしてここが最寄駅?」
「ええ、そうです。徒歩で五分のはずです」

 車はその道へと入っていく。通り沿いには雑貨屋やカフェなど様々な店が立ち並んでおり、どこも魅力的な雰囲気を醸し出していた。

「わぁ、後で行ってみてもいい?」
「ちょうどお昼時ですしね。せっかくだから食べていきましょうか」
「うん! そうしよう」

 その通りを抜けると、突然緑に囲まれた住宅街が姿を現す。『brilliant town』と書かれた看板があるアーチを過ぎると、そこはまるで海外にでも来たかのような、通り沿いに広々とした家が並んでいた。
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