Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

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 午後から仕事に入った春香は、入店した途端に常連客の接客にあたる。土曜日の午後は特に人が多いだめ、心の中は焦りながらも、丁寧且つ迅速に対応していた。

「いつものファンデーションと口紅が欲しいんだけど」

 六十代前半の女性は春香が出勤する時間に合わせて来店した常連客で、ミディアムヘアの黒い髪はいつも綺麗に整えられ、来店する時は笑顔を欠かさない素敵な人だった。

「斎藤様、いらっしゃいませ。いつものですよね。少々お待ちください」

 春香はお客様情報を確認しながら、カウンター裏の棚からファンデーションの箱と口紅を取り出し、女性の前に並べた。

「商品はこちらで間違いないでしょうか」
「えぇ、大丈夫。あ、あと、クリスマス限定コスメの予約って今日からよね? まだ在庫はある?」
「予約してくださるんですか? ありがとうございます! 当店の在庫はまだありますよ」
「本当? じゃあその予約もお願い」
「かしこまりました。ではこちらの予約票の記入だけお願いしても良いですか?」

 タブレットで商品の入力、代金の清算、クリスマスコスメの予約をテキパキとこなしていく。

「佐倉ちゃんがいてくれるから、つい安心してこの店に来ちゃうのよねぇ」
「うふふ。そんなふうに言っていただけて嬉しいです。私も斎藤様にお店に来ていただける日は元気をもらえるんですよ。いつもありがとうございます」
「佐倉ちゃんがここに来てから四年よねぇ。そろそろ異動があるんじゃないかってハラハラしてるのよ」
「そんなことになったら私も悲しいですよー。この店にずっといたいくらいですから」

 商品を袋に入れ、店の前まで見送る。

「ありがとう。また佐倉ちゃんがいる日に来るわね〜」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。またのご来店、お待ちしていますね!」

 明るく笑顔で手を振る背中を見ながら、春香は心が温かくなるのを感じた。自分を好きだと言ってくれる人がいるこの職場が大好きだし、離れるなんて考えたくなかった。

 ふと頭をよぎるあの男性客との関わりが、何事もなく、ただの偶然であることを願うしかなかった。
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