Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 僕が話しかけようとした瞬間、春香さんは桜を見つめながら先に話し始めてしまった。

「桜ってね、私の中では分岐点の時に咲いていた花なんだ」
「分岐点……ですか?」
「そう。一度目はフラれた時。二度目は椿ちゃんと再会した時。私の名字が"佐倉"っていうのもあるけどね」

 一度目というのは卒業式が終わった後のことだろう。僕は先輩があの人に告白し、そしてフラれた瞬間を目撃していた。

 先輩が帰っても、春香さんは桜の下にいつまでも立ち尽くしていた。それを僕は離れた場所から見守るしかなかった。

 だって僕が声をかけたところで、春香さんは強がるに決まっているーーその考えた矢先、彼女が大きな声で泣き出したのだ。

 彼女は強いわけでも、元気なわけでもなく、ただ一生懸命な女性だった。彼女の弱さを目の当たりにした瞬間に、僕は春香さんに恋をしていたことをはっきりと自覚した。

「春香さん」

 彼女が振り返った瞬間、穏やかな風が吹き抜け、桜の花びらが舞ったのだ。

「うわぁ、キレイ……!」

 花びらの中で感嘆の声をあげた春香さんは、桜なんて目に入らないくらいキレイで、僕の胸は彼女の横顔に鷲掴みにされてしまう。

 呼吸すら忘れて見惚れていると、春香さんは笑顔で僕の頬に手を触れた。

「ほっぺに花びらがついてるよ。可愛い」
「可愛いのは春香さんの方です」

 思わず口から飛び出した僕の言葉に頬を赤らめた彼女を、居ても立っても居られず抱きしめてしまう。何年も経つのに、僕の心にはやっぱり春香さんしかいないのだと実感する。

 『Love is blind』ーー恋は盲目。僕はそれでいい。あなただけに捕らわれていたいから。

 意を決した僕は、彼女から少し離れて向き合うと、大きく深呼吸をした。
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