Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 春香さんの手を取り、下を向かないよう真っ直ぐに彼女の目を見る。

「あなたと最後に会った卒業式の日、僕の心の時間は一度止まってしまった。でも春香さんと再会してようやく動き出したんです。小説を書くことだけが生きがいになっていた僕の生活に、優しく温かい光が差し込んだのはあなたが現れたからです」

 部長の影から逃げながら、小説を書くだけの日々だった。春香さんへの忘れられない恋心を綴るだけの人生だと思っていたのに、春香さんがいるだけでこんなにも輝き出した。

「僕はあなたに救われ、あなたに悦びを与えられた。これから先もずっと春香さんと過ごしていきたい……だから……その……僕と結婚してください」

 目を瞬いた春香さんの顔が徐々に真っ赤になり、潤んだ瞳から一筋の涙が零れ落ちる。

「えっ……だって半年後って……」
「お互いに愛し合っていたらもう少し早くてもいいんですよね」
「そ、そうだけど、不意打ちすぎてびっくりしちゃった」
「プロポーズはそういうものじゃないんですか?」
「あはは、確かに!」

 すると春香さんは思い切り吹き出し、それから僕の体に腕を回した。

「素敵なプロポーズをしてくれてありがとう。私も瑠維くんと結婚したいです」

 あぁ、こんなに嬉しいなんて知らなかった。溢れ出る感情を抑えられず、僕は春香さんを強く抱きしめた。

 その瞬間、再び強い風が吹いて花びらが舞い散る。周りにいた人々が目を伏せる姿が目に入り、僕は衝動的に春香さんを桜の木に押し付けると、彼女の唇を塞いだ。

 何度も何度も貪るように彼女の唇にキスをした。もっと深く繋がりたい……そう思ったけど、風が止んだので仕方なく彼女から離れる。

 たった数秒の出来事だったはずなのに、まるで長い時間キスをしていたかのような息苦しさと満足感に包まれた。

 春香さんは熱に浮かされたようにうっとりとした目で僕を見つめ、それから唇を尖らせる。その仕草が僕を煽っているなんて、彼女はきっと気付いてないだろう。

「その唇が可愛いから、もう一度キスしていいですか?」
「こ、こんなところじゃダメです!」

 そんな彼女が可愛いくて仕方ないんだーー僕はポケットから小箱を取り出すと、春香さんに差し出した。

「ちゃんとしたものは今度二人で買いに行きましょう。それまではこれをつけていていただけますか?」

 僕は箱の中から指輪を取り出すと、彼女の左手の薬指にはめる。それを見た春香さんの瞳がキラキラと輝いた。
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