Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 慌てて着替えを済ませ、手に握っていたスマホで瑠維に電話をかけながら、社員用の通用口に向かう。

『はい』

 コール音が鳴らないうちに通話状態になったため、春香は驚いて足を止めてしまった。

「あっ、佐倉です。今どこにいるかなって思って」
『通用口にいます』

 そう話しながら通用口を出た途端、春香はとてつもない安心感に包まれた。通用口前の通路を挟んだ真正面に立っていた瑠維は、スマホを耳に当てたまま春香に向かって頭を下げていたのだ。

 昼間に会った時と同じ服装だったのですぐに見つけられたが、あの時と違うのはここが人通りの多い場所のため、多くの女性が彼をチラッとみなが通り過ぎていくこと。さろ

 春香も昼間にドキッとしたくらいだ。気持ちはよくわかる。これからこの人と並んで帰るのだと考えると、少し気が引けてしまう自分もいた。

 大丈夫、ただ送ってもらうだけーー春香はスマホを下ろすと、瑠維の元まで駆け寄っていく。

「よく場所がわかったね! あまりにもざっくり伝えちゃったから電話しようと思っていたの」
「あぁ、近藤先輩に教えてもらいました」
「椿ちゃんに?」

 瑠維は頷くと、スマホの画面を春香に見せる。そこにはこの辺りの地図に、通用口の場所をまるで囲われたスクリーンショットが映されていた。

 時々心配だからと、仕事帰りにここで待ち合わせをしたことを思い出し、椿らしい丁寧な説明の仕方に思わず吹き出してしまう。

「ところでお店は決まりましたか?」

 そう聞かかれて、春香は首を傾げてからハッとしたように口を開けた。

「あっ、忘れてた。あの……君は何か食べたいものはある?」

 よく考えてみたら"瑠維"という名前しか知らず、苗字がわかないからといって下の名前でよんでもいいのかもわからず困ってしまう。

 春香の気持ちが伝わったのか、
「すみません。ちゃんと挨拶をしていませんでしたね。君島(きみじま)瑠維です」
「あぁ、そうなんだ! じゃあ君島くんって呼べばいいかな?」
「……良くないですね」
「ん? じゃあなんで呼んだらいいの?」

 瑠維は口を閉ざし、春香をまっすぐに見つめた。少し口元が緩んだ気がしたが、一緒でキュッと結ばれる。

「高校の時から知っていますし、下の名前で呼んでください。」
「そうなの? じゃあ……瑠維くん、何が食べたい?」

 しかし名前を呼ばれた瑠維は目を閉じて下を向いてしまった。
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