Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 半分まで水を飲んでから、春香は瑠維の顔を見上げる。

「あの……今日は来てくれてありがとう」

 瑠維は春香と目が合うと、気まずそうに下を向いた。

「いえ、見過ごせない案件ですから。全てではありませんが、近藤先輩から話は聞きました。実害が出ているわけではないですし、なかなか難しい問題ですね」

 椿が話してくれたと聞き、春香は少し安心した。今からまたあのことを話すのは気持ちがのらなかった。

「そっか。椿ちゃんが話してくれたのなら安心だ」
「あの……少し話を聞いてもいいですか?」
「その人のこと? なんていうか、食事には誘われたけど、それ以外に何かされたわけではないんだ」
「でも待ち伏せされてますよね」
「それは……」
 
 ただの偶然だと思い込もうとしている自分がいる。そうすれば大事にはならないし、いつかはまた何事もない日が戻ってきて、ただの勘違いだったで済ませられるはずーー。

「その人が現れる日に、何か共通点とかはないんですか? 例えば曜日が決まっているとか、時間が同じとか」

 瑠維は引く気はないようで、自己紹介をした時と同じテンションで話し続けている。今日再会したばかりの先輩にこんなに親身になってくれることは、本当はすごくありがたいことだとわかっている。それでも重たい口がなかなか開かなかった。

 春香が顔を上げると、瑠維はじっと春香を見つめている。その目を見ていると、高校生の時に戻ったような感覚に陥った。

 高校生の頃、春香が博之や友人達と話していると、瑠維が話しかけるタイミングを窺うようにそばにいることが多々あった。表情を決して変えることはなく、無表情のまま話を聞いている。

 そんな時、春香は瑠維と目が合うことがあった。真っ直ぐで真剣な眼差しについ引き込まれそうになる。ただその途端に、瑠維の方が目を逸らすので、ハッと現実に引き戻されたのだ。

 なんだかその時の目に似てるかもーーそう思うと、彼の想いが決して軽い気持ちではなく、真剣なものであると察することが出来た。

 でも私なんかのために……見た目通り、中身も真面目タイプなのかしら。

 春香はため息をつくと、諦めたように口を開く。

「曜日はまちまちなの。だけど時間は……私が帰る頃だからほぼ同じかな。まぁ定時以降なら、帰る時間は調整出来そうだよね」
「確かにそうですね。話しかけてくる場所はどうですか?」
「うーん……駅のそばが多い気がする。改札に入る前の通路でバッタリあったり、声をかけられるの」

 その時、
「はい、カレーうどんと天ぷらうどんとカツ丼ね!」
と頼んでいたものがテーブルに運ばれてくる。

 二人は顔を見合わせ、とりあえず先にお腹を満たすことにした。
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