Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 瑠維が食べたいと言っていたのは、コンビニのソフトクリームだった。先ほどのうどんの代金を考えると、申し訳なさでいっぱいになる。

「こんなのでいいの?」
「期間限定のフレーバーですよ。今しか食べられないものですから、これがいいんです」
「そうなの? それならいいんだけど……」

 店先で食べながら、春香は小さく息を吐いた。今日はいろいろなことがあった。一日があっという間に感じるのは、この安心した時間のおかげかもしれない。

「この後、家まで送りますから」
「あの……瑠維くんって家はどこなの? わざわざ私の家まで行って帰るのも大変でしょ? だからここまででいいよ。いつもの時間より遅いし、きっと大丈夫だと思うからーー」
「送るというのは僕が決めたことです。だから先輩はそれに素直に甘えてくれればいいんですよ」

 甘えていいだなんてーー今までだってそんなことを言われたことはなかったから戸惑ってしまう。

「それに先輩には申し訳ありませんが、電車には乗りません」
「ん? 乗らない?」
「はい、車で帰りますから。乗ってください」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って! 車? そこまでしてもらう必要ないし……逆に乗れないよ」
「ダメです。僕がそこまでしないと気が済まないんです。野犬がうろつくような場所にみすみすあなたを放すと思いますか。あり得ません。大丈夫です、僕は送り狼なんて下衆な野郎にはなりませんから」

 顔は冷静に見えるが、息つく暇がないほどのセリフを吐き切った瑠維に、冷たいのか熱いのかわからない妙な違和感を感じてしまう。ただの彼が心から心配してくれていることは感じられた。

「なんか瑠維くんの言葉って素敵だよね。ちょっと芸術的というか、小説家とかに出てくる表現みたいですごく……きれいだけど難しい」

 春香が言うと、瑠維は無表情のまま吹き出した。何か面白いことを言っただろうかと不思議に思ったが、彼が春香に手を差し出したため、それ以上は考えられなくなる。

 瑠維は車で帰ろうと言ってくれている。そして強引にではなく、その判断を春香に委ねていた。

 こういう感じ、すごく好きかもーーグイグイ来られるのではなく、ちゃんと気持ちを確認してくれる。

 そんなことを考えてキュンとした自分に、春香は愕然とした。今日再会したばかりの後輩にときめくなんて、たとえ彼がイケメンに成長していたとしてもどうかしている。

 彼は好意でついてきてくれているだけ。もっと言えば、ヒロくんという先輩からの圧力によって嫌々付き合ってくれているのかもしれない。

 でも彼は"素直に甘えてくれればいい"とも言ってくれた。これが彼の優しさから来る好意ならば、逆に甘えてしまいたい気持ちになる。

 一体どちらが真実なのだろうーーそう思うのに、心は決まっていた。

「……じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 春香は緊張しながら瑠維の手に自分の手を載せた。

 瑠維は安心したように微かに口角を上げると、春香の手を引いて歩き始めた。
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