Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 その時、先ほどの瑠維がスープを作ろうとした際の言葉を思い出して春香はハッとした。

『知ってるというか、僕自身がそうなので』

 彼が春香の家に駆けつけてくれた時間は、普段の夕食の時間よりも早かった。ということは、彼も春香同様、何も食べていないーー?

 そう言えば椿ちゃんから連絡をもらったとも言っていた。それは一つの仮説を導き出していた。

 春香はスプーンを置くと、瑠維の方に向き直った。

「あの……もしかして椿ちゃんから今日のことを聞いていた?」

 瑠維は春香の方は見ずに、スープを食べ続けている。

「聞きましたよ。春香さんから届いた怪しすぎるメッセージを何度も読み返していたら、池田先輩経由で近藤先輩から連絡が来たんです。それで納得しました」

 そういえば先ほど椿から連絡があったと言っていたが、一体どこまで話したのだろう。

「椿ちゃんはどこまで瑠維くんに話したの?」
「……店にあの男が現れて、僕のことを引き合いに出して春香さんを脅したこと。それから春香さんが僕に迷惑をかけまいと、今日は一人で帰ろうとしていることを教えてくれました」

 それって会話の全容じゃない……ということは、瑠維は全部知っていたことになる。

「……私のメッセージ、そんなに怪しかった?」

 怪しまれないようにと書いたメッセージだったが、やはり彼には通じなかったようだ。

「ええ。こんな時に飲み会なんてあるはずがないと思っていましたし。だから警察の方にお願いして見回りをしてもらっていたんです。僕はとりあえず春香さんが無事に帰るのを見届けたら帰ろうと思っていました」

 確かにあのタイミングで警察官が現れたことには驚いた。

「えっ……じゃあもしかしてずっと……?」

 瑠維は頷く。

「春香さんが帰って来た時は、あの男の姿も見えなかったから大丈夫だろうと思っていたら、まさか別の階に隠れていたとは……予想外のことが起きたので、部屋に行くのが遅くなってしまってしまいました。すみませんでした……」
「なんで瑠維くんが謝るの⁈ 謝るべきは私の方だし……。ちゃんと瑠維くんに頼れば良かった。勝手なことをしてごめんなさい」
「ーーそうですね。そこは反省してください」
「うっ、もちろん反省してるってば」

 食事も摂らずに私を心配して来てくれただなんてーー不謹慎だとわかっていても嬉しくなる。

 瑠維は空になったスープ皿をカウンターに置くと、春香の方に向き直った。
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