Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「今日は朝イチに警察ですか?」
「うん、連絡するって言われたけど、被害届の相談をしたいと思って」

 キッチンに戻った瑠維は、コーヒーの入ったマグカップを両手に持って戻って来る。

 春香の前にマグカップを置くと、自分のコーヒーを飲みながら椅子に座った。

「今日は夕方から夜まで予定があるのですが、それまでは時間があるので一緒に行きましょうか」
「えっ……」

 それはすごくありがたい申し出だった。やはり昨日の今日では不安もあり、誰かがそばにいてくれたら心強い。しかしすぐに返事が出来ずに口籠ってしまう。

 瑠維はそれを見逃さず、春香をじっと見つめた。

「これは春香さんの気持ちですから、無理強いはしません。でも辛い時、苦しい時、誰かがそばにいると安心したりしませんか?」

 それはまさに瑠維のことだと春香は思った。ここ最近は、瑠維がいてくれることで救われることばかりだったのだ。

「僕はそばにいるしか出来ないけど、警察に行ったら、嫌でも辛いことを思い出して話さないといけません。僕がもしその助けになれればと思っただけなので、判断は春香さんに任せます」

 彼の言葉には説得力があった。だからこそ、否定する材料が頭に浮かばなかった。

 なんだろう……まるでそのことについて知っているような、経験者のような感覚を覚える。

『何度も言いますが、もっと頼ってください。僕はあなたに頼られたいんです』

 昨夜の言葉を思い出しながら、春香の心は決まった。

「ありがとう。じゃあ……お言葉に甘えて一緒に来てもらってもいい?」
「ええ、もちろんです」

 そう言うと、瑠維は少しだけ口角を上げて目を細める。時折見せるこの可愛いらしい笑顔に胸を掴まれ、もっと見たいと思う。

「やっと甘えてくれましたね。すごく嬉しいです」

 春香が恥ずかしそうに頬を染めると、瑠維が優しく微笑んだ。

 彼に近い人たちはこの表情をきっと昔から知っているはず。つい最近知ったばかりの春香は、こうして近くで見られることにささやかな喜びを感じていた。
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