Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「……何も事情を知らないのに、勝手なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」
「いえ……僕も大声を出してしまってすみませんでした」

 その時に瑠維のスマホが鳴り、ポケットから取り出して画面を見た瑠維は目を細めてため息をつく。

「大原先生だ……」
「どうぞ、出てください」

 瑠維は不安げな様子の春香の頭にそっと手を載せ、
「すぐに戻って来ますので」
と言い残し、書斎に行ってしまった。

 とはいえ、今ひどい剣幕で引き剥がそうとした鮎川と二人で残され、春香は戸惑いを隠せない。

「あ、あの、お茶でも淹れましょうか……?」
「すぐに出ますので結構です」

 暫しの沈黙が流れ、春香は用もないのにキッチンの引き出しを開けたり、水で手を洗ったり、よくわからない行動を繰り返す。

 その中で沈黙を破ったのは鮎川だった。

「先ほどは失礼しました」
「い、いえ……」
「私は先生の担当をさせていただいています鮎川て申します」
「あっ、佐倉です。すみませんが、私、彼がどんな職業なのか何も知らなくて……」

 鮎川はまた驚いたように目を見開き、何かを考えながらか春香をじっと見つめる。

「失礼ですが、佐倉さんは先生とどういうご関係でしょうか?」

 彼女の言葉から攻撃性や棘がなくなった気がし、ようやく春香の中から不安が消えていく。

「高校の先輩後輩の間柄なんです。ほとんど会話をしたことはないんですけどね」
「と言いますと?」
「私が仲の良かった人の後輩で、その人を挟んで顔を合わせていただけなので、ちゃんと話すようになったのは最近でーー」

 春香の言葉を聞いた鮎川の顔が、みるみるうちに上気していくのがわかる。

「お尋ねしますが、佐倉さんはそのご友人のことが好きだったのでは?」
「な、何故それを……!」
「あぁ、やっぱりそうでしたか……そうですか……とうとう……」

 ぶつぶつ呟く鮎川は、どこか興奮しているようにすら見える。

 なんだろう、興奮してる……? ただ春香にはその意味がわからず、不思議そうに首を傾げる。

 それよりも春香の中には疑問に思っていることがあった。たとえ仕事関係とはいえ、女性に鍵を預けたりするだろうか。やはりこの二人はそういう関係なのだろうかーー。

「私から質問をしても良いでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」

 春香はゴクリと唾を飲み込む。もしかしたら聞きたくないような答えが返ってくるかもしれない。それでも曖昧にするよりは、事実をはっきりせるべきだと思ったのだ。

「鮎川さんと……君島くんは、その、ご関係は……」
「はい、ただの作家と担当です。それ以上でもそれ以下でもありません。言葉のままの関係ですので、ご心配はいりません」
「でも合鍵は……」
「あぁ、下の車で待っている先生のご友人から預かりました」

 鮎川がキッパリと言い切ったことで、春香の中の不安はなくなったが、それよりも"作家"という気になるワードが現れた。
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