Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「作家? 瑠維くんが?」

 目を瞬く春香に、鮎川は頷く。

「佐倉さん、蒼葉(あおば)(るい)という作家をご存知ないですか?」
「……すみません、私、海外のロマンス小説しか読んでこなかったもので……」
「あはは! 趣味は人それぞれですからね」
「その"蒼葉類"が、瑠維くんなんですか?」
「そうです。ミステリー小説が人気の作家なんですが、大学生の時に新人賞を受賞した恋愛小説はかなり話題になったんですよ」
「大学生……すごい」
「受賞作の『Love is blind(恋は盲目)』は、好きな人に気持ちを伝えられない男が、彼女の沼にハマって堕ちていく話で、先生の実話とも言われているんです」

 実話と聞いて、思い出されることがあった。きっとあの人のことに違いないーー。

「もしよければ、《《佐倉さんに読んでいただきたい》》です」
「私に……ですか?」

 その時に書斎のドアが開き、瑠維が中から出てくる。春香と鮎川の空気の変化を感じ取ったのか、不思議そうに二人を見た。

「電話は終わりましたか?」
「えぇ。あの、二人はーー」
「さぁ、そろそろ出発の時間ですよ」

 鮎川に促された類だったが、春香の元に駆け寄ると、手に何かを握らせた。

「合鍵です。もし出かけることがあれば使ってください」
「あっ……うん、ありがとう」
「先に寝ていてくださいね。なるべく早く帰るようにしますから」

 合鍵をもらうなんて体験は初めてで、しかも好意を抱いている相手からのことだし、尚更照れくさくなってしまう。鮎川との関係がはっきりとしたこともあり、素直に嬉しいと感じた。

「うん、わかった。いってらっしゃい」
「行ってきます」

 髪に触れる瑠維の手がくすぐったくて、ふと目を伏せる。

 部屋を出ていく瑠維と鮎川を見送りながら、たった一人で残された部屋の静けさに、少しだけ寂しくなってしまった。
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