Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 カウンター席の正面には、通路を挟んで棚がある。そこには何やら名前が書かれたたくさんの缶が並んでいることに気づいた。

 その時カウンターの中にいた店員が缶を取ると、蓋を開けて茶葉を取り出すのが見えた。

「えっ、もしかしてこれ全部お茶なのかな?」
「うん、そうだよ。産地と銘柄に分けてあるの」
「あれっ、なんか詳しくない? 何回か来てる感じ?」

 不思議そうに椿を見つめると、急に照れたように顔を真っ赤に染めて俯いた。

 ブラウンに染めた髪を右耳の下で結び、薄手の白シャツにテラコッタのオールインワン。でもいつもはつけないイヤリングが耳元に揺れている。

 地味で自分に全く興味のなかった椿を、ここまで変えたのは春香だった。彼女を見るたびに、今の仕事に就けたことに誇りを持つことが出来た。

 春香はニヤリと笑うと、椿の脇腹をツンツン突いた。

「もしかして……彼氏でも出来たの?」
「えっ⁈」
「なんか今日いつもよりオシャレだし、顔が真っ赤で可愛いし」

 その時、ふと同じカウンターに座る男性を思い出す。同化はしていても、女性ばかりのこの店には少し不釣り合いな気がしていたのだ。

「わかった! 椿ちゃんの好きな人ってもしかしてーー!」

 そう口にしながら顔を上げた春香は、商品を届けた後も未だに着物姿の男性店員が目の前にいることに気付く。不思議に思い、男性店員をゆっくりと見上げた春香は口をあんぐりと開けた。

「えっ……ちょ、ちょっと待って! まさか、ヒロくん?」

 思わず立ち上がってしまった春香を、"ヒロくん"と呼ばれた男性店員は笑顔で眺めている。

「あはは! 正解。久しぶりだな」

 あの頃と変わらないはにかんだような笑顔。目を細めて楽しそうに笑うのは池田(いけだ)博之(ひろゆき)ーー高校生だった春香と椿がずっと好きだった相手に間違いなかった。
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