Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 作品は、一人の男子高校生・(れい)の片思いの話で、彼が入学したところから物語は始まる。

 中学の頃から剣道を続けていた伶は、ずっと憧れていた先輩がいる高校に入学をし、充実した学生生活を送っていた。

 ただ部活動以外の時間に先輩を訪ねようとすると、必ず先輩のそばにいる女子がいた。明らかに女性を感じる柔らかな笑顔やふわっとした髪、会うたびに漂うフローラルの香りや雰囲気に、伶は言い表せないモヤモヤとした不快な感情を抱く。

 しかし先輩に会いにいくならば、彼女・初夏(ういか)と会わない選択肢はなかった。

 あの人は先輩が好きなのだろう。でも好きの度合いなら、僕の方があなたよりも好きに決まっている。

 どこかで彼女をライバル視しながら、心の中で彼女を否定し続けた。

 ある日のこと。図書館に行った伶は、窓際の席で読書に耽る初夏を目撃する。

 見た目だけなら、ほかの女子よりも圧倒的に美しい。少しハスキーな声も魅力的だ。

 だけどこの日は様子が違った。

 いつもとは違う真剣な表情、ややだらしなく片足を立てながら本に集中する姿。スカートの裾からのぞく太腿に唾をゴクリと飲む。艶のある唇に呼吸が乱れた。そして初夏は伶の存在に気付くと、じっと彼を見つめる。

 その後だった。伶に対して、初夏は小さく微笑んだのだ。

 途端に伶の中の何かが弾けた。

 彼女のことを不快だと感じたのは、自分の中の説明出来ない感情に気付いたから。それが愛だと知ると、あんなに大好きだった先輩に対して激しい嫉妬心を抱くようになる。

 先輩じゃなくて僕を見て。その優しい声で僕の名前を呼んで。

 僕はあなた以外は恋愛対象にならないくらい、あなたしか見えていない。あなたにだけ愛を囁き、あなたがいなければ生きている意味がない。あなたがいればそれだけでいい、あなたに愛されたい、あなたの心が欲しいーー。

 でもあなたに拒絶されるのが怖くて近寄れない小心者なんだ。それなのに彼女への欲望に対する妄想が心も頭も支配し始め、彼女に近付く男を全て排除したくなる独占欲ばかりが強くなっていく。

 そして卒業式の日。初夏は好きだった人にフラれて、その場で泣き崩れる。なのに伶は近付くことすら出来なかった。

 だって僕はこの恋愛劇の登場人物ではないからーー。

 しかしいつまで経っても消えない彼女への想いのやり場がなく、彼女以外にはなんの感情も抱けない伶は、少しずつおかしくなっていく。

 彼女のいない世界の、なんと虚しいこと。こんな空虚な世界に生きている意味を感じられない。

 そして生きる希望を失くした伶は、失意のまま身を投げた。落ちた場所は花畑。初夏から香っていた匂いのようだと思った伶は、ようやく彼女に抱かれた喜びのもと、意識を失った。
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