Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 一体どれだけの時間が経ったのだろう。気付くと食事すら忘れて作品に没頭していた。慌てて時計を見ると、既に十時を回っている。

 読み終えた春香は、本をテーブルに置いた。それから山積みになったティッシュペーパーの山を見ながら、鏡を見るのが怖くなった。

 目が腫れてたらどうしよう。明日は仕事なのにーー。

 ただそれよりも気になることがあった。読んでいる間もずっと気になっていたこと。この主人公の伶と初夏の関係性が、どう考えても瑠維と春香に重なるのだ。

 これは実話だと言われているーー鮎川はそう話していた。それが事実かはわからないが、もしそれが本当ならば、瑠維が恋をしていたのは春香というふうに捉えられる。

 確かに今朝の会話も少しだけ引っかかった。でも……瑠維くんが私を好きだったなんて、俄かには信じられない。

 だって、高校時代の瑠維くんは私に全く興味なんてなさそうだったし、再会した時だってすごく面倒くさそうにしていた。

 ただ不思議と彼と目が合うことはよくあった気がする。すぐに逸らされてしまうから、気まずいのだろうと勝手に解釈していたけど……あれはもしかして逆の意味だった?

 図書館というワードも気になった。時々本を読むために出入りしてはいたが、あんな風に瑠維くんと会ったのは思い出せない。

 その時だった。突然スマホの着信音が響き、春香は驚いて体を震わせた。

 画面を覗くと椿の名前が表示されている。そしてようやく椿への連絡を忘れていたことを思い出したのだ。

「はい、もしもし!」
『あぁ、良かったー! 春香ちゃん、全然連絡くれないから心配したんだよ!』
「あぁ、ごめんね! 心配かけたのに連絡忘れちゃってた」
『ううん、何もなかったのならいいの』
「えっと……実はそうでもなくてね……」

 あんなに心配してくれたのに、どうして連絡を忘れていたんだろう。いろいろなことがあり過ぎて、頭が追いつかなかったなんて、きっと言い訳にしか聞こえない。

 とはいえ、昨日瑠維が助けに来てくれたのは椿のおかげだった。春香は怒られるのを承知で、昨日の出来事について、椿に話し始めた。
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