Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「じゃ、じゃあ椿ちゃん! 瑠維くんが帰ってきたから、また連絡するね!」
『えっ、ちょ、ちょっと待って! 瑠維くんが帰ってきたってどういう……』

 椿の困惑する声が聞こえてきたが、春香は慌てて電話を切った。

 それからティッシュペーパーと本を、足の先端を使ってソファの端へと追いやっていく。

「お、おかえりなさい。思ったよりも早かったね」
「えぇ、酔うと面倒な方がいたので、そうなる前に切り上げてきました」

 二人の間に流れる沈黙は、明らかにあの本が原因であることはわかっていた。

 もしかしたら春香のことを書いた作品かもしれないのに、それを本人が読んだと知ったら、瑠維はどう思うのだろう。

 さて、どうしたものか。彼が作家であることは私は知らないことになっている。それなのに偶然この本を持っていただなんて信じるだろうか?

 いや、信じないだろうなーーそんなふうに思った瞬間、瑠維がスッと立ち上がる。

「すみません、ちょっと気分転換にプールにでも行って来ます」
「えっ、プール⁈ いいなぁ、私も行きたい……」

 とりあえずこの場から離れたかったのが一番の理由だったが、よくよく考えてみれば、二人でプールに行っても気まずさが消えるとは思えない。それでも春香自身も泳ぐことで気分転換をしたいと思ってしまったのだ。

 しかし春香がそう言うと、瑠維は困惑した様子で瞳をぐるぐると動かす。

「はっ? えっ、いや、それは……」
「実は前にプールがあるって聞いてたから、泳いだら気分転換になるかなって思って水着は持ってきてるの。あっ、でも少し前のだから流行りのものではないんだけど」
「いやいや、そういう問題じゃなくて……」

 それにプールならもしかしたら他に人もいて、二人きりの気まずさから抜けられるかもしれない。

 なかなか折れない春香の様子に、瑠維はとうとう諦めて、頭を掻きながら俯くとため息をつく。

「わかりました。一緒に行きますから、準備をしてください」
「やった! ありがとう!」

 春香は瑠維にお礼を伝えると、準備をするため寝室に飛び込んだ。
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