Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「あれは先生が新人賞を受賞して、騒がれていた頃のことです。大学二年だったと思います。まぁあの見た目ですし、作品も実話と噂される恋愛小説。女性たちも放っておくはずがなく、かなり騒がれていました」
瑠維くんが大学二年ということは、春香と椿が再会した頃。彼がそんなふうに騒がれているとは全く知らなかった。
「鮎川さんはその頃から瑠維くんのことをご存知だったんですか?」
「えぇ、だからその時のこともよく覚えているんです。ただ先生はどんな女性にも全く興味を示さず、やはり初夏じゃないとダメなんだろうと、大抵の女性は諦めていったんですーーただ一人を除いては」
鮎川の声の調子が変わり、何か嫌な出来事を思い出すような、苦虫を噛んだような表情になる。
「大学時代に先生が入っていた文芸サークルの部長の女性が、先生が賞を取った途端に付きまとうようになったんです。受賞作を読んで惚れ込んだらしく、その才能とあのルックスを自分のものにしたくて、四六時中先生に張り付いては、寄ってくる人を蹴散らしていました。まるで先生を自分のもののように扱い、私たちの連絡も自分を通すようにと言い出したんです」
「そんな……」
鮎川はため息をつく。それはかなり酷いものだったことを物語っていた。
「酷いですよね。先生自身もそんなつもりはなく、ただサークルの部長に反論出来ず、日に日に追い詰められて……。あの頃はかなり痩せて、神経もピリピリしていたけど、私たちもどうしていいのかわからなくてーーそんな時にある事件が起きたんです」
「何があったんですか?」
「その部長が、自分の部屋に先生を監禁したんです」
鮎川の言葉は、春香の想像を超えていた。
彼がそんなに過去を抱えていただなんて知らなかった。思い出すのも苦しかったはずなのに、自分の心配をしてくれていたと思うと胸が苦しくなった。
「それまでストーカーのように電話や脅しも繰り返していたので、先生もとうとう限界が来たんでしょうね。警察に行くと行ったそうです」
「それで監禁……?」
なんて自分勝手な人だろうーー春香の中で、会ったこともない女性への怒りが込み上げてくる。
「そうです。怒った彼女は『あなたには自分が必要だということをわからせてあげる』と言って、先生を自室に閉じ込めたんです」
「酷い……」
「ええ、本当に。すぐに彼がいないことに気付いた友人が動いてくれたおかげで、場所場所は特定出来たのですが、監禁されている間に何があったのかは、警察と弁護士、当事者しか知りません。ですがこの件に関して相手の方に対して接近禁止令が出されて、示談も成立しているので、たぶん先生自身は終わったこととして捉えているのだと思います」
本当に終わっているのだろうかーー今回のことでその時の記憶を瑠維が思い出していないか心配だった。
瑠維くんが大学二年ということは、春香と椿が再会した頃。彼がそんなふうに騒がれているとは全く知らなかった。
「鮎川さんはその頃から瑠維くんのことをご存知だったんですか?」
「えぇ、だからその時のこともよく覚えているんです。ただ先生はどんな女性にも全く興味を示さず、やはり初夏じゃないとダメなんだろうと、大抵の女性は諦めていったんですーーただ一人を除いては」
鮎川の声の調子が変わり、何か嫌な出来事を思い出すような、苦虫を噛んだような表情になる。
「大学時代に先生が入っていた文芸サークルの部長の女性が、先生が賞を取った途端に付きまとうようになったんです。受賞作を読んで惚れ込んだらしく、その才能とあのルックスを自分のものにしたくて、四六時中先生に張り付いては、寄ってくる人を蹴散らしていました。まるで先生を自分のもののように扱い、私たちの連絡も自分を通すようにと言い出したんです」
「そんな……」
鮎川はため息をつく。それはかなり酷いものだったことを物語っていた。
「酷いですよね。先生自身もそんなつもりはなく、ただサークルの部長に反論出来ず、日に日に追い詰められて……。あの頃はかなり痩せて、神経もピリピリしていたけど、私たちもどうしていいのかわからなくてーーそんな時にある事件が起きたんです」
「何があったんですか?」
「その部長が、自分の部屋に先生を監禁したんです」
鮎川の言葉は、春香の想像を超えていた。
彼がそんなに過去を抱えていただなんて知らなかった。思い出すのも苦しかったはずなのに、自分の心配をしてくれていたと思うと胸が苦しくなった。
「それまでストーカーのように電話や脅しも繰り返していたので、先生もとうとう限界が来たんでしょうね。警察に行くと行ったそうです」
「それで監禁……?」
なんて自分勝手な人だろうーー春香の中で、会ったこともない女性への怒りが込み上げてくる。
「そうです。怒った彼女は『あなたには自分が必要だということをわからせてあげる』と言って、先生を自室に閉じ込めたんです」
「酷い……」
「ええ、本当に。すぐに彼がいないことに気付いた友人が動いてくれたおかげで、場所場所は特定出来たのですが、監禁されている間に何があったのかは、警察と弁護士、当事者しか知りません。ですがこの件に関して相手の方に対して接近禁止令が出されて、示談も成立しているので、たぶん先生自身は終わったこととして捉えているのだと思います」
本当に終わっているのだろうかーー今回のことでその時の記憶を瑠維が思い出していないか心配だった。