大神様の呪いのふみきり
大神様は沙友理が探しものをしている間中ずっと、フミキリの前に立っていた。
「電車事故に遭ったのなら指以外にもなくなったものがあるんじゃない? どうして指にこだわっているの?」

質問しながらゆっくりと距離を縮める。
大神様の濁った目が沙友理を見つめていた。

その姿は恐ろしいけれど、不思議と最初のような恐怖心は消えてなくなっていた。
大神様がなにもしてこないからかもしれない。

それに、10年前とはいえ大神様は自分と同い年の女の子なのだ。
なにか少しでも会話ができれば、わかり会えるかもしれないと思ってしまった。

沙友理が徐々に距離を縮めていくと不意に大神様が大きく口を開いた。
真っ黒な口腔内から発せられるのは獣の咆哮に似た声だ。

獣の咆哮の中に、人間の泣き声のようにも叫び声にも聞こえる声が混ざっている。
沙友理は思わず両手で耳を覆ってその場にうずくまっていた。

遮断器の機械音が全く聞こえなくなるほどの大音量。
雑草が異変を知らせるようにザワザワと揺れる。
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