トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~【減筆版】
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「――じゃあわたし、人事部に顔を出してくるから」
「はい。行ってらっしゃいませ」
わたしは人事部のある三十階でエレベーターを降り、貢が乗ったエレベーターはそのまま最上階へと上がっていった。
人事部はこのフロアーでエレベーターホールから見て奥の方、人事部長室はその一番奥、会長室のちょうど四フロアー下にある。
「――上村さん、お疲れさま。山崎部長はいらっしゃいますか?」
執務室の前、秘書席に座っていた専務秘書の女性に声をかけると、彼女はわたしの顔を見て一瞬驚いた後、「ええ、いらっしゃいます。お呼びしましょうか?」とわたしに訊ねた。
「ううん。わたしから押しかけてきたんだし、中に入らせてもらえればいいから。山崎さんにちょっと大事な話があって……」
「そういうことでしたか。分かりました。どうぞお入り下さい。――お茶、お持ち致しましょうか?」
「ああ、すぐに失礼するからお構いなく。ありがとう」
上村さんの許可を得たわたしは自ら部長室の木製ドアをノックした。ちなみに会長室のドアも木製だけれど、重みというか重厚感は人事部長室や他の執務室の方が少し軽いと思う。わたしは建築家でも設計士でもないのでよく分からないけれど。
「――はい。誰だね?」
中から聞こえてきたダンディーな声の主は、「わたし、篠沢ですけど」と名乗ると慌ててドアを開けに出てきて
「これは会長! 失礼致しました。どうぞ」とわたしを招き入れてくれた。
「――どうされたんです、会長? わざわざ私を訪ねてこられるとは」
応接スペースの革張りソファーに腰を下ろすと、彼は会長自らの突撃訪問に首を傾げた。
「何か用がおありなら、会長室へお呼び下されば私の方から参りましたのに」
「今日はわたしから貴方にお願いがあって来たんです。頼みごとをするのに呼びつけるのは失礼でしょう?」
これはわたしの方針であり、亡き父の方針でもあった。たとえ上司と部下の関係であっても、頼みごとをする時には自分から出向くべし。
「まぁ、確かにそのとおりですな。――で、私にお願いしたいこととは?」
「山崎さんの方がよくご存じだと思うんですけど、総務課でハラスメントの問題が起きているそうですね。それについて、内密に詳しい調査をお願いしたくて。今も進行形なのか、とか大体どれくらいの人たちが被害に遭っているのか、とかそのあたりについて調べてほしくて」
「はぁ、そういうことでしたらお安いご用ですが。会長はそれを知ってどうされるおつもりなんですか?」