甘美な果実
 ケーキである篠塚は、フォークに喰われた篠塚は、被害者として周りから守られる立場となっている。何も知らない人からすれば加害者でしかない俺は、篠塚だけでなく、恐らく全生徒の精神面を鑑みた上でのことだろう、一ヶ月の停学処分を言い渡された。それが、ケーキを喰い、傷つけた俺に与えられた罰則だった。

 その処分に対して、自分が誘ったのだと被害者である篠塚が間に入って庇うような言動をしてくれたようだが、教師がそれを聞き入れることなかった。どんな事情であろうとも、俺が人を喰ったことに変わりはないからだろう。篠塚が良くても、篠塚以外が良くないのだ。そういうものだ。

 俺が受けたのは、ただの停学処分だ。退学処分にならなかっただけましなのではないか。でも、もし、篠塚を殺していた場合、篠塚が死んでいた場合、問答無用で、俺は学校から追放されていたに違いない。紘が来てくれなければ、きっと血みどろな結末を迎えていた。彼には助けられてばかりだった。

 ケーキの血肉を喰ったフォークの俺と縁を切ろうとしないのは、紘だけのように思える。篠塚のことも頭の片隅に浮かんだが、彼の場合、俺の方から縁を切ろうと考えていた。どんなに篠塚が自分を食べてもいいと言っても、あのような失態はもう二度と犯したくはない。理性を失ってケーキを貪るような醜態も、晒したくはない。篠塚のせいだと言って、目の色を変えたくはない。篠塚の言葉に、惑わされてはいけない。俺は、篠塚の好意には、応えられない。それをまだ、伝えられていない。冷酷な言葉で突き離せば、全て丸く治まるのだろうか。

 二階にある自室のベッドの中に潜り込んでいる俺は、起きる気もないまま寝返りを打った。横になっている時間が以前よりも長くなっている。家には誰もいない。両親は、俺が学校から停学処分を言い渡されたところで、それが既に明けているところで、わざわざ仕事を休むようなことはなかった。登校できずにいる理由を、両親には伝えていた。その上で強要はせずに、良い意味で放任してくれているような両親には、頭が上がらなかった。
< 111 / 147 >

この作品をシェア

pagetop