甘美な果実
後悔した。謝るべきだと思った。思ったのに、咄嗟に声が出なかった。先程まですらすらと引き出されていた言葉が、喉の奥に張り付いて、次の言葉を堰き止めているかのようだった。
「……そうだよ、分かんねぇよ、俺はフォークじゃねぇから」
絞り出すような声が、隣から聞こえた。冷めていく互いの熱が、場を気まずくさせていた。共通の友人が殺されるかもしれないことに、俺も紘も、見えない焦燥感に煽られて。相反する感情をぶつけ合ってしまった。その結果が、これ。何の解決の糸口も見つけられないまま、ただ、諍いをしただけ。話を聞いてほしいと、学校をサボってまで俺を頼ってくれた紘に、俺は嫌な思いをさせただけ。そうだと自覚しても尚、俺の口は開かなかった。ごめんの短い一言も、音に乗せられなかった。
紘が静かに腰を上げる。俺は顔すら上げられない。俺の前を通って部屋を出ようとする紘は、篠塚のことは俺がどうにかするから、と自分一人で解決することを表明し、俺を残してその場を後にした、と思ったが、いつまで経っても扉の閉められる音がしない。まだ紘の存在を感じ、恐る恐る顔を上げると、初めて見るような悲しげな表情で、紘がこちらを見ていた。
「瞬は、殺人鬼と一緒なんかじゃない」
ごめん。俺が言わなければならないことを紘が口にし、彼はその姿を消した。扉が虚しく閉められる。遠のいていく足音が、気配が、存在が、広がっていく紘との心の距離を表しているかのようだった。
結局俺は、何も言えなかった。紘を呼び止めて、自分の発言を謝罪することすらできなかった。口喧嘩をしたかったわけではないのに。篠塚のことを救うための方法を見つけたかっただけなのに。最悪な結果を招いてしまった。冗談ではなく、真剣にぶつかり合ったからこその結果だった。笑い飛ばせる話であれば、きっとこうはならなかった。
「……そうだよ、分かんねぇよ、俺はフォークじゃねぇから」
絞り出すような声が、隣から聞こえた。冷めていく互いの熱が、場を気まずくさせていた。共通の友人が殺されるかもしれないことに、俺も紘も、見えない焦燥感に煽られて。相反する感情をぶつけ合ってしまった。その結果が、これ。何の解決の糸口も見つけられないまま、ただ、諍いをしただけ。話を聞いてほしいと、学校をサボってまで俺を頼ってくれた紘に、俺は嫌な思いをさせただけ。そうだと自覚しても尚、俺の口は開かなかった。ごめんの短い一言も、音に乗せられなかった。
紘が静かに腰を上げる。俺は顔すら上げられない。俺の前を通って部屋を出ようとする紘は、篠塚のことは俺がどうにかするから、と自分一人で解決することを表明し、俺を残してその場を後にした、と思ったが、いつまで経っても扉の閉められる音がしない。まだ紘の存在を感じ、恐る恐る顔を上げると、初めて見るような悲しげな表情で、紘がこちらを見ていた。
「瞬は、殺人鬼と一緒なんかじゃない」
ごめん。俺が言わなければならないことを紘が口にし、彼はその姿を消した。扉が虚しく閉められる。遠のいていく足音が、気配が、存在が、広がっていく紘との心の距離を表しているかのようだった。
結局俺は、何も言えなかった。紘を呼び止めて、自分の発言を謝罪することすらできなかった。口喧嘩をしたかったわけではないのに。篠塚のことを救うための方法を見つけたかっただけなのに。最悪な結果を招いてしまった。冗談ではなく、真剣にぶつかり合ったからこその結果だった。笑い飛ばせる話であれば、きっとこうはならなかった。